莉桜はしばらく黙って先輩の答えを待っているようだったが、困った彼がこれ以上何も言わないとを悟ると大きく息を吐いた。
「……なんてね。ごめんなさい、先輩からの気持ち嬉しいんですけど、今は誰とも付き合わないって決めてるので」
「そ、そっか。じゃあしょうがないね! 今のは忘れて!」
先輩は助かったとばかりに早口で言うと、そのまま走り去って行く。
僕はそれを確認してから、再び大きなため息をつく莉桜の前に出た。
「もうちょっと普通に断ればいいんじゃないのか?」
「ああ佑馬。……あは、見てた?」
「あの先輩に妙な噂流されたらどうする」
「だって一応聞いときたいじゃん。あそこではっきり『覚悟あります!』って言ってくれるような人だったら、是非恋人になりたいね」
「本気か?」
「もちろん! ……って言いたいところだけど、うーん、さっきの先輩はあんまタイプじゃなかったしな~」
彼女はぐっと伸びをしてから、僕に視線を向ける。そしてヘラっといたずらっぽく笑った。
「私の好みのタイプはー……分厚い眼鏡掛けてて髪はちょっとテンパっぽくて、そんな見た目だから根暗なのかと思えば案外よくしゃべる、ちょっとひねくれたお人好しの文芸部員だからなぁ」
「……」
どう反応しろと言うのだ。
困って目を逸らすと、彼女はニヤニヤした顔をぐっと近づけてくる。
「あっれ~? 佑馬、顔赤いよ?」
「……」
「やだな~、佑馬のことだなんて一言も言ってないのに~ ……って、いてて! 佑馬、痛い!」
僕は、痩せていて弾力が少ない莉桜の右頬をぎゅっと引っ張った。
涙目で「ごめんって、ギブ!」と訴える彼女を見るうちに気が済んだので、ちょうどスマホの通知音が鳴ったタイミングで離してやった。
スマホに入ったメッセージは母親からだった。内容を読んだ僕は、頬をさする莉桜に言う。
「莉桜、母さんが今夜一緒に夕飯どうだって言ってるけど来るか?」
「え、本当?」