誰もが認める美少女で、さっぱりとした明るい性格。病気のことで周りから敬遠されているが、裏を返せば、それを知らない人から莉桜は当然モテる。

 だから僕は、廊下を歩いているとき彼女がどこぞの上級生に告白されている場面に偶然出くわしたとして、そこまで驚きはしないのだ。


「前からすごく可愛いなって思ってたんだ。付き合ってくれませんか?」


 にこにこ笑顔の明るい髪色をした(ヘアカラー禁止の校則をここまで堂々と破っているのは珍しい)派手なイケメンは、自分がフラれるなんて想定は、たぶん一ミリもしていない。
 莉桜はそんな彼に応えるように満面の笑みを浮かべ、わざとらしく手を合わせて「嬉しいです!」と言う。


「先輩みたいな格好いい人からそんな風に言ってもらえて、あの、嬉しいし、恐れ多いっていうか……」

「いやいや、だってキミ、めちゃめちゃ可愛いし」

「そんなことないです! うぅ、恥ずかしいです……」


 ……何ともわざとらしい。僕は廊下の曲がり角の死角に隠れたまま行く末を見守ることにした。

 莉桜の反応は好感触と見た先輩は、ずいと一歩近づく。


「控えめなのも可愛いなぁ。ね、付き合ってくれる?」

「あの、その前に一つ聞いても良いですか?」

「うん。何かな?」

「先輩は、私が死ぬその瞬間を見届ける覚悟はありますか?」


 莉桜の声がワントーン下がった。


「覚悟があるなら付き合っても良いです」

「……は?」
 

 先輩は「この女、突然何を言いだしたんだ?」と言いたげな困惑した声を上げる。


「だから、先輩は私が死ぬその時まで隣にいてくれるのかどうか聞いてるんです」

「そ、そんな遠い未来のこと……」

「どうして遠い未来のことだって思うんですか? 人間いつ死ぬかなんて誰にもわからないのに。あなただって今日の帰り道、突然暴走トラックに突っ込まれて死んじゃう可能性だって十分にあるんですよ?」

「いや、それは……」


 ここから先輩の表情までは見ることができないけれど、簡単に想像がつく。まずい、面倒な女に声を掛けてしまった……と後悔して苦い顔になっているのだろう。