「私、そろそろ死ぬと思う」

 一心不乱に勉強した末めでたく合格した高校へ、期待とやる気を胸に入学した──なんて記憶はとっくに薄れた、そんな高校一年生の秋。
 日直日誌を書くため放課後の教室に残っていた僕に、幼なじみでありクラスメイトの莉桜(りお)は言った。

「へえ。莉桜が言うと冗談に聞こえないな」

 僕はそれに対して、日直日誌から目を離すことなくどこかおざなりに答える。
 天気、時間割、授業の感想。このあたりは簡単に書けるからいい。困るのは無駄に大きなフリースペースだ。ぼんやりとした一日を過ごしてしまいがちな僕にとって毎回これが強敵だ。

「……佑馬、もう少し心配そうな反応をしてくれても良いと思うんだけど」

「ならもうちょっと深刻そうに言ってくれ。『今日は寒いね』ぐらいのトーンだっただろ今のは」

 僕はやれやれと呆れたように肩をすくめてみせた。だけど実は内心、少し暗い気分になっていた。これに対する莉桜の返答は何となく予想がついていたからだ。
 彼女には、口癖のように繰り返す言葉がある。

「深刻に思ってないんだもん。いつ死んだっていいと思ってるから」

 予想通りだった。
 いつ死んだっていい。これこそが彼女の口癖だ。死と隣り合わせの病と昔から付き合っていれば、自然とそういう心持ちになるのだとか。

「ねえ、フリースペース書くことなくて困ってるなら、私が久しぶりに登校してきたことに対する喜びをいっぱいいっぱいまで綴っておいてよ」

 なるほど。僕はうなずいて、フリースペース一行目に『莉桜が退院して約一か月ぶりに登校。全く授業受けてなかったくせに小テスト満点で腹が立った』と書いておいた。

 書きながら、言うべき言葉を探していた。