その感性はよくわからない。
僕らのやりとりを見ていた女子部員の一人が、にやりと笑って手を挙げた。
「はいはい! ペンネームにするならもっといいのがあるじゃーん」
「え?」
「“櫻田莉桜”でどう? いつか本名になるかもしれないペンネーム、良くない?」
この人はあくまでも恋人ネタを引っ張るつもりでいるようだ。
莉桜はパチパチと数回まばたきをして「いつか?」と首をかしげる。
そのきょとんとした表情は、そもそも結婚して自分の苗字が変わる年齢まで生きている想定をしておらず、何をいじられたのか一瞬わからなかったのだろう。
「良いですね。さくらの字が二つも付いてるし」
莉桜のそんなちょっと見当外れな答えと同時に、完全下校を告げるチャイムが校内に響き渡った。