そして部長のこの一言を聞いて、嫉妬心が込み上げていたであろう部員たちも、ハッとしたようにそれを飲み込んだようだ。
良い作品はたとえ小学生が書こうが良い作品。羨む暇があれば手を動かす。
部長のそんな姿勢に、皆一目置いているのだ。
「長編小説、私にも書けるかな」
莉桜は小さく呟いた。
単に能力の有無について言っているのか、それとも長編を書き上げるのに残された命の時間で足りるのかどうかについて言っているのかはわからない。ただ、前者なら可能だと言い切れる。
そして、莉桜の病気について知る由もない部員たちも、当然前者の意味に受け取った。
「せっかくだし挑戦してみなよ~」
「そうそう。だから入部届に名前書いちゃわない?」
「ペンネームも決めよ?」
女子部員たちが莉桜を囲んでわいわい言い始める。
莉桜もちょっと嬉しそうにそれに答えた。
「あは、入部はまあ前向きに検討します。ペンネームは……そうだな、リオデジャネイロとか?」
何故かブラジルの都市が出てきた。莉桜だけにってか。
「櫻田くんの彼女、文章力すごいけどネーミングセンスは微妙ね」
「あれ、ダメですかね?」
心底不思議そうな表情を見るに、本人はネタでなく本気でアリだと思っているらしい。
そしてそのまま矛先がこちらに向いた。
「じゃあ佑馬、何か私にいいペンネーム考えて」
「……突然言われても。僕は本名をそのままペンネームにしてるけど、それじゃダメなのか?」
「面白くないじゃん」
「そうか。……なら“勇気”でどうだ? 英語でcourageの勇気」
僕の彼女だと堂々と嘘をついてみたり、文芸部部長に対してあっさり創作に興味がない発言してみたり。勇気があるというか怖いもの知らずの莉桜にぴったりだろう。
「シャレがきいてて悪くないけど可愛さに欠けるなあ」
「リオデジャネイロは可愛かったのか?」