毎日真夜中に、空想の友人を相手にメールを送る少女の物語。
800文字の中で、少女の感情を精緻に描き出し、綺麗に落ちまで付けられている。何より読ませる力がすごい。
「えへへ、すごいでしょすごいでしょ。もっと褒めていいんだよ」
ただ本人がこれ以上ないほど得意げにするので、素直に褒めたたえるのは何となく癪だったりもする。
「ねえ櫻田くん、こっちにも見せてよ」
そのうちに、他の部員たちも莉桜の初作品に興味を持ちはじめた。
僕は莉桜に許可を得て、データを部員たちのスマホに転送する。
「……ねえ櫻田くんの彼女、本当に書いたの初めて?」
そして読み終わった皆が皆、よく似た言葉を口にした。
創作に興味がないという発言は嘘で、本当は普段から執筆を趣味にしていたのではないかという疑念……というか、そうであってほしいという願望がこもっている。
僕はここでようやく、これはあまり見せるべきでなかったかもしれないと思った。
程度の差はあれ、部員たちは自分たちが物語を作り出せる存在であることに誇りを持っている。冷やかしで試しに書いてみただけの人にこのレベルのものを書かれては、心穏やかではいられないのだ。
幼なじみである僕は、何でもこなす彼女の器用さを知っているが、他のメンバーにとっては恐らく予想外だった。
その雰囲気を察した莉桜は、ここに来て初めて顔に困った色をにじませた。
「あ、まあ、偶然良い感じにそれっぽく仕上がっただけで……」
僕も何かフォローを入れておこうかと口を開きかけたときだった。
教室の奥でずっと静かに原稿に向かい合っていた人が、ぽつりと言った。
「さらに細かく設定を練って、長編……難しければ中編ぐらいにしても面白いだろうな」
ただそう呟くだけ呟いて、部長はスマホを置いてまたペンを執る。
莉桜は目を見張って部長の方を見た。その口元は、にやけるのをどうにかして堪えているようだった。