……宇宙人と不倫していることがバレた男が、逃走用の宇宙船を造るため、必死に砂鉄を掻き集める……という話を書いた気がする。さすがにシュールすぎてお蔵入りになったが。


「まあとにかく、その三つの単語から連想させてみるんだ。できそうか?」

「任せて! 作文は結構得意だし、いけると思う!」


 莉桜はつい先ほどと同じように自信満々でパソコンに向き合う。
 だけど今度は先ほどと違い、そのまま集中してキーボードを叩いていた。

 こうなってしまってはもう声を掛けるわけにもいかないので、僕も鞄から原稿用紙を取り出して座る。他の部員たちも、それを皮切りに各々作業に没頭する。

 そのまましばらくが経った。


「できたっ!」


 そんな明るく大きな声で、意識が物語の世界から現実に引き戻される。

 タンっと勢いよくエンターキーを押して、莉桜は得意満面で僕を見た。


「ねえ佑馬どうしよ。私天才かもしれない」

「そりゃ良かった。読ませてくれるのか?」

「うふふ、どーしよーかなー」

「見せたくないなら無理強いはしないけど」

「わ~嘘! 頑張ったのでどうか見てくださいお願いします!」


 初めからそう言えばいいものを。
 莉桜からノートパソコンを渡された僕は、文書作成ソフトのカーソルを一番上まで持っていく。文字カウントを見ると、全体で800文字程度だった。


「……」


 大抵のことは器用にこなす莉桜だから、初挑戦の小説もそれなりのレベルで仕上げてくることは予想できていた。予想できていたのだが。


「……すごい、な」


 締めくくりの文まで読み終えた僕は、素直に感嘆の声を漏らした。

 予想をはるかに超えてきた。上手い。自分で言っていた『私天才かもしれない』は全く大袈裟ではなかった。