莉桜は「へえ」と興味深そうにうなずく。
 ……記憶力の良い彼女は、きっと僕の今の説明を丸々暗記するだろう。間違ったことを言っていないか後で確認しておかなければ。


「今日の活動時間内に書き上げるつもりなら、掌編を目指すのがいいな」

「300字から800字の小説、だったね。オッケー任せて。あ、パソコン使わせてください」


 何故だか自信満々にパソコンに向き合う莉桜。
 だけど、1分ほど腕を組んだかと思えば困ったように僕を見る。


「ねえ佑馬。何書いていいか全く思いつかない」

「そう言う気がしたよ」


 僕たちのように、普段から小説のネタになりそうなことを考えている人間ならまだしも、数十分前まで自分が小説を書くなんてこと想像さえしていなかった彼女が、そうやすやすと書けるはずもない。
 気を利かせた部員の一人が、大きな封筒を持ってこちらへやってきた。





「ネタが出てこないときわたしたちもよくやる方法があるんだ。この封筒にね、単語が書いてある紙が大量に入ってるんだけど……」



 ガサゴソと封筒の中身を混ぜている様子を見ると、大袈裟でなく本当に大量の紙片が入っていることがわかる。

 この紙片は部員たちの気が向いたときにどんどん足しているので、全部で何枚入っているのかは誰も知らない。



「この中から三つ引いて、そこに書いてある単語をテーマに話を作るの


「おお、面白そう」


「まあ、たまに誰が書いたんだか変なお題もあるし、引いたからって絶対使わないといけないわけじゃないから。あくまでアイディア出しに」


 封筒の口を向けられた莉桜は、パパっと三枚を選び、机に並べた。
 横から覗いて読み上げてみる。


「『真夜中』『メール』『空想』か。奇抜なのは無かったな」

「奇抜なのって、例えばどんなのがあるの?」

「僕は前『宇宙人』『砂鉄』『泥沼不倫』を引いた」

「え、そのお題で書いた話普通に読んでみたいんだけど」