「なるほど、櫻田の彼女な」


 ゆっくり顔を上げた部長は、莉桜を視界に捉え、顎を撫でながら言う。
 集中して執筆しておりこちらの話は耳に入っていなかったのかと思ったが、莉桜の爆弾発言はしっかり聞こえていたようだ。そして僕の訂正は聞いていなかったか、もしくは無視したらしい。


「部の説明か。各々が自由に読んだり書いたりする。そんでたまに部誌作ったりする。以上」

「ふうん」

「櫻田の彼女、創作に興味は?」

「あは、正直言って全くないですね」

「なら入るな。俺が卒業した後もまだ6人残るから部は存続だ。興味のない奴を無理やり入れる必要ない」


 部長を前にして実に正直に答えたものだ。部長も腹が立つだろうに、だが表情には出さず淡々と言った。


「えええそれはないですよ部長! わたしたちそんな存続ギリギリでやってくの嫌ですもん。メンバー増えるなら、別に『大好きな彼氏と少しでも一緒にいたいから~』って動機だろうが何でもいいんです!」

「そうですよ。もう見学なんて言わさずこのまま入部届出させたいぐらいです」


 やる気のない人は入れたくない方針の部長に、他のメンバーたちが反発する。これから部を担っていくのはこちらなのだから当然だ。
 しかし部長も譲らない。文芸部の活動に誇りを持っている人なのだ。そうでなければこんな時期まで部活を続けたりはしない。
 あれこれ言い合いが続いていたところに、メンバーの一人がおずおずと手を挙げた。


「あの、とりあえず櫻田くんの彼女さんに、短い小説を試しに書いてみてもらうのはどうですか? やってみたら楽しくて興味が湧くってこともあるかもしれませんし」