そんな莉桜への陰口があちこちで聞こえるようになってきた。
それはやがて本人の耳にも届くようになり、耐え切れなくなった莉桜は一度癇癪を起したことがある。
「私だって好きでこんな身体に生まれたわけじゃない! うらやましいなら代われよ! あんたらの心臓私に寄こせよ! 何も考えずボケっと生きてきたあんたらに私の気持ちがわかってたまるか!」
強い口調で、だけど目からはとめどなく涙を流れていた。
もともと莉桜を悪く言っていた女子たちも、莉桜に負けず劣らず気の強い子たちであったため、そのまま激しい言い合いになった。
誰かが呼びに行ったのか仲裁に入った教師は、顔を真っ青にしていた。そして、喧嘩相手の女子たちを激しく責め立てた。悪口を言っていたことについてではなく、言い返して莉桜を興奮させたことを。
陰口を言っていた彼女らは誰が何と言おうと悪い。だが、大っぴらに喧嘩をした小学生たちに対しては、程度の差はあれ喧嘩両成敗的な判断を下される場合が多い。この時のように、片方が100%責められるのは稀なケースだ。
教師は恐らく、莉桜が癇癪を起したことで心臓に負担を掛けたかもしれないとパニックになっていたのだ。一方的に怒られたことで、莉桜は喧嘩相手の女子たちに逆恨みされてさらに睨まれるようになった。
そしてこの件を境に、莉桜はずいぶんと穏やかになった。自分は敵をつくりやすいと気付いたのだろう。
「体育サボり? ……あは、バレたか。いやー、皆暑くて大変そうな中こうやって合法的に見学できるんだから、この身体も悪くないよね~」
小学校も高学年になった頃には、同じような悪口を言われても、そう冗談めかして受け流すようになっていた。
だけど僕は知っている。そういう冗談を言った直後の莉桜は、いつもひどく苦しそうな顔をしているのだと。