僕が莉桜と知り合ったきっかけ自体は、ごくありふれたものだった。
 うちの近所に引っ越してきた莉桜の一家に色々と世話を焼いた母が、自分の子どもたちの中で莉桜と同い年だった僕を引き合わせたのだ。
 当時僕らはまだ未就学児だったが、ハキハキとしゃべる気の強そうな彼女に圧倒されたのは、うすぼんやりと覚えている。

 そして、莉桜の病気のことについても母親から簡潔に教えられた。


「莉桜ちゃんね、身体が弱くてできないことが多いの。だからちゃんと気にかけてあげるのよ」


 この気の強そうな子が病弱、というのは今一つピンとこなかった。だが母の言う通り、莉桜は確かにできないことが多かった。
 まず、当時の僕が全員通うものだと信じて疑わなかった幼稚園に、莉桜は行かなかった。僕は母親同士が仲良くなったおかげで顔を合わせる機会はあったものの、当然他に同い年の友達がいる様子はなかった。


 小学校へ通うことは医者から許可が出たものの、そこでも制限はあった。

 一番わかりやすかったのが体育の授業への参加禁止。心臓の病気を持っていても、症状の度合いによっては軽い運動ができることもあるそうだが、莉桜は完全に禁止されていた。
 皆がわいわいスポーツに興じる中、日影や体育館の隅で毎回退屈そうに見学している姿をよく見かけた。

 それでも、低学年のうちは良かった。
 心臓の病気があるから運動ができない、という教師の説明に皆納得しており、むしろ莉桜が少し早歩きでもすればあちこちから心配の声が上がったぐらいだ。

 様子が変わったのは3年生か4年生になる頃。


「あんなにずっと見学ってことあり得る? 絶対サボりだよね」

「心臓のビョーキってのも怪しいよ。普通に元気そうじゃん」

「体育あんなにサボって許されるなら、私もビョーキになりたいぐらい」

「わかる~」