「小学校のときは確か京都だったような気がします。……だけど、行ってないんですよね。小学校と中学校の修学旅行」
「え、行ってない? 何でです?」
「まあ、……体調不良で。だけど代わりに、僕と同じように休んでいた幼なじみとガイドブックや旅番組のDVDを集めて疑似修学旅行なんてやりました」
あれは本当に楽しかった。懐かしい思い出に自然と頬が緩む。
実際に皆と行く修学旅行より、二人だけの疑似修学旅行の方が、自分にとってはずっと楽しかった。自信を持って言える。
「出ましたね~。先生の初恋の幼なじみさん」
「あ、しまった」
加菜にからかうように笑われ、佑馬は無意識に幼なじみエピソードを披露してしまったことを後悔する。
数年仕事をする間に、加菜に今はいない幼なじみの存在を明かしていた。抱いていた想いもどこかのタイミングでうっかり話してしまっていたようで、時折こうしてからかわれるのだ。
「でもいいなぁ。佑馬先生にそこまで想ってもらえる幼なじみさん」
「どこが……」
「初恋の人……っていうか、唯一の人、って感じですよね。何なら、亡くなられた今でも好きなんじゃないですか?」
加菜に指摘されて、佑馬は唇を結び軽くうつむいた。この有能な編集者は鋭いところがあって困る。
8年。いい加減立ち直るべきなのは理解している。それでも、あの子は佑馬にとってどうしようもなく特別だった。
「あ、あのぉ。出過ぎたことごめんなさい先生」
思い出に沈み黙り込んだ佑馬を見て、加菜は気分を害してしまったのかと焦ったらしい。慌てて謝罪してくる。
そういうわけでは全くなかったので、佑馬はすぐ表情を緩めてみせた。
「いえ、大丈夫です」
「えと、その初恋吹っ切りたくなったら言ってくださいね! あたし、顔の広い友達がいるので、その子に頼んで先生のために合コンとか開いちゃいますよ!」
「あはは。ありがとうございます」