佑馬の担当編集である山本加菜(かな)は、今年で27歳になるはずだが、大学生だと言われてもすんなり信じてしまうぐらいあどけなく可愛らしい顔立ちをしている。
 加えて話し方は常に高い声で甘えた調子。いったいこれまで何人の男たちが骨抜きにされてきたのだろう……と打ち合わせで顔を合わせるたび思う。


「ねえ先生。桜、このあたりでもやっと咲き始めたみたいですね!」

「そうですね。標本木の花が五輪咲いたって、今朝のニュースで見ました」

「今年も編集部でお花見するのかなぁ。あ、いいこと考えた。今年は佑馬先生も参加しませんか、お花見っ!」

「お誘いありがとうございます。でもそういう場は少し苦手なので」

「そっかぁ残念。じゃあ、あたしと二人きりのお花見だったらどうです? ……なんて無駄話してる場合じゃないですね、うふふ、お仕事しないと。えっと今日は次回作の話と週末開催のサイン会の話をしにきたんでしたね」




 初めて会ったときは加菜の絵に描いたような小悪魔キャラに驚いたが、今ではもう慣れた。そして編集者として意外に有能なことも知っている。佑馬の知名度を上げたのは彼女の功績も大きいと思う。


「まずは次回作の話を。予定は京都のお寺を舞台にしたヒューマンドラマって話でしたねぇ。一度取材旅行は行くべきですね」

「はい」

「京都かぁ。いいですね。あたし、中学の修学旅行で行って以来、京都大好きなんですよぉ。金閣寺が一番好きで!」


 うっとりとした顔の加菜を見て思わず苦笑する。寺とはいえ、さすがに金閣寺は舞台に選ばない。この感じだと一日でいくつかの寺を取材した後、次の日は観光という流れになりそうだ。
 加菜はさらにいくつかの好きな観光地の名前を挙げた後、佑馬に聞いた。


「佑馬先生の学校も、修学旅行の行先は京都でした?」

「ああ……」


 佑馬は記憶を辿ろうと、ふっと目を細めた。どうだったか。実は、よく覚えていなかった。