「実は私、あの頃ずっと死ぬことばかり考えていたんです」

「……は?」

「あ、言っておきますが、精神的に追い詰められて自殺を考えたとかそういう話じゃないですよ。高校ではかなり人間関係に恵まれてましたし」

「じゃあどうして」

「私、生まれつきここが……心臓が悪かったんです」


 莉桜は、幼い頃から抱えてきたその欠陥のせいで、どのように苦労し……そして、佑馬がそんな自分にどう寄り添ってくれたのかを、一つ一つ語った。
 卓は驚いたような表情をしていたが、相づちだけ打ちながら静かに聞いてくれた。

 移植手術を受けて死の恐怖から解放されたと話したところで、ようやく「それならよかった」と息をついた。


「それで、何故今になって突然そんなことを話してくれた? 今まで全くそんな話を聞いたことはなかった。隠していたんじゃないのか?」

「病気だったこと自体はもう過去のことなので、積極的に人に話すことはないです。でも……」





 莉桜は足を止めて、卓の顔を見上げた。

 24年生きてきた中で知った、自分が一番魅力的に見える笑顔を浮かべる。



「人生の伴侶になる人に、伝えておかないわけにはいかないと思いまして」



 伴侶。これからの人生を、連れ添っていく人。

 卓はすぐに意味を理解し、目を丸くする。


「これが、私の答えです」


 そうはっきりと断言した莉桜に対し、卓は完全に予想外だったとでもいうように目を泳がせながら言った。


「悪い……結婚の話は断られる流れなんだと……勝手に……」

「え?」

「これだけ好きだった櫻田のことを忘れられるわけがないから、他の男と結婚するなんて考えられないと言われると思ったんだ」

「ああ、なるほど」


 その気持ちも確かにあった。実際、佑馬の墓参りをしたときまでは、卓からのプロポーズを断るつもりでいた。

 だけど、それでは永遠に前を向けないのだと気が付いた。


「24年生きてきて、恋愛感情を抱いたのは後にも先にも佑馬に対してだけです。きっと今後もこの気持ちは簡単には消えないと思います」