「そういえばある人から聞いたんですけど……。山本さん、私の前ではこんな感じでも、男性の前だとずいぶん冷めたクールキャラだそうじゃないですか。新人男性作家もう何人も泣かせてるって」
莉桜の言葉に、加菜の顔からすぐさま笑みが消え、表情が固まる。
「なぜそれを……」
「男性が苦手なんですか?」
「べ、別にそんなんじゃ……ないことはないけど……」
加菜はごにょごにょと口ごもったかと思うと、やがてわっと手で顔を覆った。
「そうですよ! 男は苦手だから作家だろうが上司だろうが、舐められないように強気の態度取ってます! もうっ……莉桜先生には、ただただ可愛い女の子ってイメージ持っておいてほしかったのに!」
「あは、なんですかそれ」
「ううぅ……ていうか誰よぉ、あたしの憧れ莉桜先生にそんな話吹き込んだのはぁ! ……わかりました、あたしのこと知ってて莉桜先生と交流のある人といえば、あのうだつが上がらない兼業作家ですね! そうでしょ!」
「卓さんのこと言ってるなら正解ですけど、大企業勤めのエリートに向かってうだつが上がらないってのは違いません?」
「作家として、って意味です!」
作家としてという意味であっても、莉桜の目から見れば卓は良い話を書く人だと思うが。
だがまあ、それを言ったところで加菜は認めないだろうと、莉桜は「なるほど」と苦笑いするにとどめた。
「ていうかそんなことより莉桜先生! この前とっても美味しいケーキが食べられるお店見つけたんです! よかったらこの打ちあわせ終わった後一緒に行きませんか?」
加菜は頬を膨らませてから大きく息を吐き出し、嘘のように笑顔になった。都合の悪い話は終わらせるつもりらしい。
美味しいケーキが食べられるお店とやらに心が惹かれないわけではないが、残念ながら既に予定があった。莉桜は加菜に向かってすまなそうに手を合わせる。
「すみません。この後はうだつが上がらない兼業作家と会う約束があるんです」