莉桜のせいで佑馬は死に、佑馬の死のおかげで莉桜は生きている。
そう感じて、莉桜のことを恨んだ時期もあった。莉桜を恨む自分が嫌だった。彼女が何も悪くないことは理解していたからだ。
あの頃ちょうど悠木家が引っ越していって家が遠くなったのは幸いだった。きっと直接顔を見ていたら、何も悪くない彼女たちに理不尽な怒りをぶつけてしまっていただろう。
でも今は、そういった感情を全て乗り越えて……莉桜には本気で感謝している。
「意地悪で嘘を教えたわけじゃないわよ。莉桜ちゃんはこれまで、もう十分すぎるぐらいあの子のことを考えてくれたから、そろそろ忘れさせてあげたいと思ったのよ」
もし莉桜が、佑馬のことなどとっくに忘れて幸せそうに生きていたのなら、今日顔を見たときに怒りが蘇っていたかもしれない。
だけど彼女は佑馬の名前を使い、装いを真似ることで、佑馬のことをひと時たりとも忘れまいとしていた。その気持ちは痛々しく伝わってきた。
「あんな綺麗な子にここまで想ってもらえるなんて、佑馬は幸せ者だと思わない? むしろ、あの子にはちょっと贅沢すぎるぐらいよ」
「それは間違いないね。8年も経ってまだ莉桜さんを思い悩ませ続けてるとか、お兄ちゃんのくせに生意気」
佑那がにやっと笑うのを見て、裕美子もつられて笑う。
何事に対してもどこか冷めていて、こだわりの薄かった佑馬。
そんなあの子が珍しく、熱く必死になるときは、決まって莉桜に関係していた。それぐらいあの子は莉桜のことを愛していた。
その愛する莉桜が、いつまでも自分に囚われて暗い顔をしていることを、佑馬は絶対に望まない。
──莉桜ちゃんのこと、あんたの呪縛から解放しといてあげたからね。これで文句ないでしょ?
裕美子は静かに目を閉じ、そんな風に心の中で天国の息子にそう語りかけた。