「佑馬くん、いつも本当にありがとう。佑馬くんが莉桜と同じクラスにいてくれて良かった……これからも、どうかこの子のことをよろしくね……?」
「お母さん!」
母親を咎めるような、厳しい莉桜の声がとぶ。同時に莉桜がいる後部座席の窓も下がった。
「佑馬ごめん。あんまり気にしないで」
「莉桜! あなたは本当に! あなたの病気のことを知りながらこうして普通にしてくれる子がどれだけ貴重かわかってるの!?」
「そんなのお母さんに言われなくたってわかってるよ!」
このまま親子喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。それを察して僕は急いで言葉を挟む。
「いえ、僕の方こそ莉桜が同じクラスなのは何かと心強いですから」
その社交辞令で、母子はふと冷静になったらしい。莉桜の母親は「そう言ってもらえると安心するわ、ごめんなさい」と小さく謝る。莉桜は気まずそうな顔をした後もう一度僕に手を振った。
幼なじみだから、事情を理解している。幼なじみだから、見捨てたりしない。
だから莉桜は、僕と一緒にいる。
もし莉桜が病気ではかったら。毎日普通に学校に通うことができていたのなら、彼女はきっとクラスの中心的存在だった。たくさんの友達に囲まれて、ただの幼なじみである僕とは同じクラスにいようがほとんど言葉を交わすことはなかったはずだ。
──普通じゃないから。
それなら、普通じゃなくて良かった。……そう思ってしまいそうになるたびに、僕はいつも必死にその気持ちを殺している。