・【魔力の実践】


 僧侶の服を着て、心の奥の魔力を見てみると、透明な何かを感じた。
「まるで鏡のようなクリアな感情があります」
「その通りですよね」
 そう言って頷いたリュウは続ける。
「それは無属性で主に回復を司ります。きっと回復魔法が使えるはずです。試しに俺の手の甲のここへ、魔法を放ってくれませんか?」
 リュウの手の甲には、古傷のような跡があった。
「その傷を、私、治せますかね?」
「治すというかゼロにすることはできないと思います。たまに疼いて痒みが出るんです。それが消えるかなと思いまして」
 でも私は治したいと思った。
 疼いて痒くなるなんて、地味だけども嫌だなぁ、と思ってしまったので。
 私は心の奥底に語り掛けて集中した。
 一番の回復魔法を出す、そんなつもりでリュウの手の甲に触れながら、魔力を放出するような気持ちになると、リュウが目を丸くして、
「えっ!」
 と叫んだ。
 私も見て、ちょっと驚いてしまった。
 何故なら古傷のような跡が綺麗さっぱり無くなり、まるで高校生の肌のように艶々になったから。
「えぇぇええ!」
 とリュウの声は止まらない。
 一体何なんだろうと思っていると、リュウが急に私の肩をガッと両腕で掴んで、こう言った。
「大丈夫ですか!」
「いや、こっちの台詞だけども」
 そうよく分からず答えると、リュウはさらに大きな声で、
「本当に大丈夫ですか! 立ってられますか!」
「そりゃ立ってられるけども、本当にどうしたの? リュウ、大きな声出してビックリしちゃった」
「いや梨花、魔力の使い過ぎで倒れそうになっていないですか?」
「いや全然。めっちゃ元気」
「ありえない……」
 そう言ってちょっとヒいているようなリュウ。
 いやいや、どういうこと、どういうこと、ヒかれるのはちょっと悲しいよ、と思っていると、リュウが自分の体をパンパン叩き、何回か屈伸して、最後に腕を上にあげ、伸びをしたところで、こう言った。
「完全回復しました……古傷から何から何まで、きっとちょっと若返っているかもしれないです……」
 確かにリュウはさっきまで大人の男性らしい、体の硬さが肌から感じられていたんだけども、何だか肌艶が良すぎて体が柔軟になっているような気がする。ピチピチのぷるぷるというか。
 私は少し焦りながら、
「もしかするとやってはいけないほどに回復させちゃったっ? 筋肉が小さくなったとかっ?」
「いやそういうことは一切無いです。筋肉は硬さと柔軟性が合わさって、最強のヤツになったかもしれません」
 そう言って自分の上腕二頭筋をチェックしたリュウ。いや筋肉隆々かよ。最高じゃん。
 というか、
「僧侶の服ってそういうことじゃないんですか? 回復させるというか」
「いや普通ここまでじゃないです。梨花はすごいです。ここまで服の魔力を引き出すなんて。チートですよ、その能力は」
 またチートって言われた……そんな最高なことありえるの? 何を着てもチートって……ヤバッ、異世界転移子の成功じゃん……あっ、
「そう言えばリュウは異世界転移子について何か知ってる?」
「確か、梨花さん、梨花はそうなんですよね」
「そうそう、私の過去の記憶的にもそうだと思う」
「俺は異世界転移子の服を作ったことがあるんですけども、特殊な部隊に所属していて、かなりの能力を持っていたという話ですね。そもそも異世界転移子は能力が高いらしいので、そういった特殊な部隊に所属することは珍しいことではないらしいですね」
「そういう人ってスカウトされるのかな? そういう部隊に」
 リュウは腕を組んで、少し悩んでから、
「確かにそうですね、スカウトされるんですかね……いや待って下さい、俺が服を作った異世界転移子はすぐに部隊に入ったというか、何なら部隊に入れるために神官が異世界転移させたみたいなことを言っていたような。お菓子の輸入みたいな感じで狙ってやったみたいな」
「えっ? でも私、そういう部隊に入っていないよっ!」
「そうですよね、この村に、いたんですか?」
「はい、この村の道の真ん中で眠っていたらしいです」
 リュウはう~んと唸ってから、
「異世界転移子にもいろいろあるのかもしれませんね。何かキッカケがあって転移したパターンと、神官から呼ばれるパターンが」
「神官ってどういう人なんですか?」
「この世界の王様みたいな人ですね、この世界を取り仕切る頭脳というか。でもちょっとワガママで有名でして、俺も服を作るとなった時たくさんの注文がありました。能力的にもデザイン的にも。で、そのデザインがあんまりだったみたいで俺はその一回限りでそれ以上に仕事を受けることはなかったですね」
 私は正直納得がいかなかった。
 こんなエイリーの服みたいな最高のデザインセンスをしているのに。
 だから、
「私はこのチャイナドレス好きだよ、最高に好きだよ。リュウのセンスは間違っていない!」
「そう言ってくださって、有難うございます」
 そう言ってハニカミ笑ったリュウ。やっぱり最高に可愛いなぁ。じゃれてる猫じゃん。
 リュウはさっきの綻んだ笑顔から、少し真剣そうな顔をしてこう言った。
「でも梨花が異世界転移したこともきっと何か意味があると思います。だってここまで能力が高いんだから絶対何かあります」
 私は実は幻の勇者的な? でもそんなの正直どうでもいいとも思う。
 何故なら私にとって今一番大切なことはリュウと一緒にいることだから。
「では次は魔法使いの服になってください。それとここからは家の外に出ましょうか。攻撃魔法を使うことになると思いますので」
 リュウが玄関の扉を開けて、私のことを待ち、私が外に出てからリュウも外に出てきた。普通にレディファーストするのかよ。
 私は外に出てから魔法使いの服に早着替えの魔法をすると、リュウは私が腕に付けているブレスレットを見ながら、こう言った。
「早着替えしても、そのブレスレットは付けっ放しですね。魔法のブレスレットなんですか?」
「私にとってはある意味ね」
「どういうことですか?」
「このブレスレットは私にできた最初のファンがくれたブレスレットで思い出のブレスレットなんだ。コスプ……服を着替える時も手首に何か巻いて隠せる時はいつも付けているんだ。可愛いでしょ」
「か、可愛いですけども、そんな、その、男性からのプレゼントですか?」
「そうだけども」
 何を言いたいんだろう、微妙に口ごもってと思っていると、私は気付いてしまった。そうか、
「もしかするとリュウ、嫉妬してるの?」
 ダメだ、ちょっとニヤニヤが止まらない。嬉し過ぎるんだけど。私は口元を手で隠しながら、そう聞いてみると、
「いや、嫉妬というか。なんというか、すみません、嫉妬しています」
 と言って頭を下げたので、どう考えても可愛すぎる。
 でも、
「これは私がレイヤーとし……モデルとしてやっていけるかもと思った、思い出のブレスレットだから外さないよ」
「そうですか。では俺はその思い出を越えられるように頑張ります」
 と真面目な表情で言い切ったので、尊いと思った。
「ではブレスレットの話はこのくらいにして魔法使いの服の話をしましょう。どんな色が見えますか?」
「青と緑と空色かな?」
「というと水魔法と木魔法と風魔法ですね、水と木は多分農夫の時と同じ感覚なので風魔法の説明をします」
「いや木はトゲトゲしたモノも見えるから、攻撃もできるということだよね。木の攻撃はまだ知らない」
「木の攻撃も基本的に生長が元になっていて、地面にある根っこなどを媒介にして、その根を肥大させたり、トゲを伸ばしたりするんです。感覚は補助魔法と一緒で使えると思います」
 なんとなく分かったし、何だか使える感じがした。
 ならば、
「じゃあ風魔法について教えてっ」
「分かりました」
 リュウは頷いてから喋り出した。