・
・【早着替えの魔法】
・
「さて、まず梨花さんにはこのなんてことない服を着て頂きたいんです。きっと梨花さんも慣れれば着ていない服もすぐ着れるようになると思いますが、最初なのでまず着替えてください。
その服はTシャツにシャツを羽織る感じで、下はジーパンだった。マジでなんてことない服。
私は、
「この服にはどういった効果があるんですか?」
と聞くと、リュウさんは優しく首を横に振り、
「これは何の能力も無い、普通の服です。多分それでも梨花さんはこの服の能力をフル活用してしまうとは思うのですが、能ある鷹は爪を隠す、この服で自分の特殊な能力を隠して下さい」
「隠したほうがいいんですか?」
「魔力の高い人間はいろんなことに狙われやすいんです。何か戦闘があった時、真っ先に狙われるというか。梨花さんは見習い魔法使いの服を着た時、正直魔力は中堅以上の魔力がありました。引き出し過ぎてしまうんです。梨花さんは」
「つまりチートということですか?」
「そうなりますね」
と頷いたリュウさん。
チートという言葉も通じるんだと思いつつも、そう言えば異世界転移子は自分の世界の言葉に変換されるって言っていたし、実際は違う言葉でもちゃんと通じるように会話できるんだろうな、と考えた時に、すぐにあの言葉が思い浮かんだ。
それは『チャイナドレス』だ。
中国のドレス、中国という言葉を知らなきゃ出てこないはずの言葉。
これもちゃんと変換されるのだろうか、変換されなきゃ鬼神騎士のエイリーの服は説明できないな。
いや別にリュウさんにエイリーの服を説明して作ってもらおうとかそんな計画は無いけども……って、
「リュウさん、どこに行くんですか?」
「いやだって梨花さん、これから着替えるわけですから一旦退席しますよ」
「もう付き合い始めたということなんですから別に大丈夫じゃないですか?」
「そんな、だからって着替えているところに同席するなんて恥ずかしいじゃないですかっ」
と慌てるように言ったリュウさん。
何これ、めっちゃ可愛い。急に席席言い始めてちょっと変とは思うけども、こういうこと気にしてくれる男性というのもアリだな。
それなら、
「じゃあ私が着替え終えたら」
「はい、それでよろしくお願いします」
そう言って玄関から外に出て行ったリュウさん。
真面目でお堅いところも似ている……って、漫画のキャラと比べるのはちょっとキモイな、自重しようと思いながら着替えて、リュウさんを呼び戻した。
「どうですかっ?」
と私が軽く半回転すると、
「自分が作った服でどうこう言うの少し恥ずかしいですが、可愛いと思います」
と少し照れくさそうに笑った。それが可愛いんだよ。バカかよ。最高かよ。
でもすぐにまた真面目な顔になって、こう言った。
「……やっぱりちょっと魔力ありますね、別に魔力を増幅させるような服でもないんですが」
「そう言われると、何かちょっと元気が出るような。軽やかな気持ちになるなぁ」
「つまるところ普段着なので、晴れやかな気持ちになってしまっているんだと思います」
「いや、嫌なことみたいな言い方されましても」
「でもこんなに服の魔力を引き出すお方初めてなので……これは本当に俺が作る服、すごいことになるのでは……ソフトクリームにフルーツ全部乗せ的だ……」
何か役に立てそうで嬉しい。アガる。
リュウさんはまじまじと私のほうを見ながら、
「不思議ですね」
また魔力の話が出るんだろうな、と思っていると、
「今まで赤の他人だったのに、こうやって二人きりで部屋に入って。銀髪の女性ももういない。一目惚れした相手と一緒に居られるなんて幸せなことあるんですね」
いや!
「魔力の話わい!」
いつも言わない語尾でツッコんでしまった。
するとリュウさんは微笑みながら、
「どうしても言いたくなってしまって申し訳御座いません。不快でしたか?」
「めっちゃ気分良いわ! ありがとう!」
「それなら良かったです。同じ気持ちで居て下さったみたいで」
「……あの、リュウさん、私もですけども敬語止めませんか?」
私がそう提案するとリュウさんがう~んと斜め上を見てから、
「ならば、敬語にならないように、会話しましょうか」
「その言葉も若干なっているけども、敬語無しでいきましょう」
「分かりました。梨花さん」
「そのさん付けも!」
と言って私がリュウさん、いやリュウを指差すと、
「分かりました、梨花。では梨花も俺のことリュウと呼んで下さい、いや呼んでほしい」
「勿論リュウ! これからよろしくね!」
「はい! 梨花さん! よろしくお願いします!」
リュウの敬語癖強いなぁ、と噛みしめていると、リュウが、
「では魔力の話ですが、やはり梨花は魔力が特殊ですね。本当に服によって魔力が大きく変化するというか。俺は魔力に敏感なほうなのですが、梨花の魔力は不安定というかなんというか読みづらかったです。最初の時、不安そうな表情をしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした」
「いや! 敬語無しの流れからめっちゃ正式な謝罪を述べないでよ! いいよ! もうそういうことは!」
「ちゃんと謝らないといけないかなという気持ちが出てきて、申し訳御座いません」
まあ丁寧な男性も嫌いじゃないけどね。優しく扱ってくれている感じもするし。
でも、
「そんなかしこまった言い方ばかりしなくていいからね!」
「分かりました」
そう言って一礼したので、そういうところだぞ、と思った。まあいいか。最高だし。
リュウは口を開き、
「それでは早着替えの魔法をお教えします」
めちゃくちゃ敬語じゃん、と思いつつも、いちいち指摘していてもアレなので、ここはスルーすることにした。
リュウさんは私のクローゼットを指差しながら、
「あちらから農夫の恰好を取り出してもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
リュウは農夫の恰好を手に取り、それを私に渡してきたので、受け取ると、
「この農夫の恰好を着ているイメージをして下さい。そして同時に今着ている服は魔力の中に押し込んで仕舞うイメージを」
そんな同時に二つのことなんてできるかな、と思いつつも、やってみると何だか一瞬裸になってしまった気がして、
「ああぁぁああああああああ!」
と叫んでしまったが、普通に農夫の恰好をしていた私。
「そんなすぐにできる魔法でも無いんですけどもね、梨花さん、梨花、やっぱり魔法のセンスありますね」
「いやでもこれ失敗していたら裸になったんじゃないんですか!」
「そうなったところは見たことないので、多分大丈夫です」
とニッコリ微笑んだリュウさん。
まあ着替えくらいで慌てる人だから本当にそうなんだろうけども。
何はともあれ早着替えができた私にリュウさんは、
「それにしても、どこかで早着替えしていましたか。才能の塊ですね」
と言われたので、会釈しながら、
「まあコスプレイヤー時代に」
と答えておくと、
「こすぷれいやー……?」
と頭上にハテナマークを浮かべているような反応。
そういう言葉は無いのか知らないのかは分からないけども、伝わっていないようだった。
この異世界にはコスプレイヤーというモノが無いのかもしれないなぁ。もったいない。
リュウはまだ小首を傾げながらも、
「それではこれから梨花さんに、梨花には、今ある服をセットしてもらいたいので、一度着替えてほしいんです」
そう言いながらリュウはどこからともなく服を出し始めた。魔力の中に仕舞っていた服というヤツかな。
最初に私に見せたのは魔法使いっぽい服。
見習い魔法使いの服とは違い、緑を基調とした服だった。
リュウは言う。
「魔法使いの服は基本的にジェンダーレスなので、誰にでも合いますね。後で細かく採寸をイジれますし」
見せたのち、一旦テーブルに置き、また別の服を見せてきた。
「これは僧侶の服ですね、こちらも基本的にジェンダーレスで、ムキムキ過ぎる男性以外は着れますね」
十字架の紋様がある服だ。この異世界でも僧侶って十字架なんだぁ、と思った。
「最後は……いや、大体こんな感じですね。この二つを着替えて、ついでに早着替えの魔法をして魔力の中に入れておいてください。入れたら普段着の服に戻ってください」
「そんな味気ないこと言わないでください。ちゃんと着た後の感想をリュウさんからもらいますから。あと、今何か言いかけました?」
と思ったことをただただツラツラ喋ったら、急にリュウは額から汗をじんわりかき始めたので、
「どうしたの? 何か私、言っちゃいけないこと言った?」
「いえ……その……はい、大丈夫です……」
何か怪しい。というか怪し過ぎる。絶対に何か隠している。
だから、
「何か隠しているなら言ってください。そういう隠し事とか好きじゃない、かなぁ?」
とちょっと揺さぶりをかけてみると、リュウは汗を流し始めて、新陳代謝良すぎかよと思った。
リュウは指で汗を拭きとりながら、
「ま、まあ、ちょっと、面白そうだな、と思って、作った服が、あります……無駄に手を加えたカットフルーツのような服が……」
ちょっと俯きがちで慌てている様子。
面白そうだなと思って作った服って、何?
・【早着替えの魔法】
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「さて、まず梨花さんにはこのなんてことない服を着て頂きたいんです。きっと梨花さんも慣れれば着ていない服もすぐ着れるようになると思いますが、最初なのでまず着替えてください。
その服はTシャツにシャツを羽織る感じで、下はジーパンだった。マジでなんてことない服。
私は、
「この服にはどういった効果があるんですか?」
と聞くと、リュウさんは優しく首を横に振り、
「これは何の能力も無い、普通の服です。多分それでも梨花さんはこの服の能力をフル活用してしまうとは思うのですが、能ある鷹は爪を隠す、この服で自分の特殊な能力を隠して下さい」
「隠したほうがいいんですか?」
「魔力の高い人間はいろんなことに狙われやすいんです。何か戦闘があった時、真っ先に狙われるというか。梨花さんは見習い魔法使いの服を着た時、正直魔力は中堅以上の魔力がありました。引き出し過ぎてしまうんです。梨花さんは」
「つまりチートということですか?」
「そうなりますね」
と頷いたリュウさん。
チートという言葉も通じるんだと思いつつも、そう言えば異世界転移子は自分の世界の言葉に変換されるって言っていたし、実際は違う言葉でもちゃんと通じるように会話できるんだろうな、と考えた時に、すぐにあの言葉が思い浮かんだ。
それは『チャイナドレス』だ。
中国のドレス、中国という言葉を知らなきゃ出てこないはずの言葉。
これもちゃんと変換されるのだろうか、変換されなきゃ鬼神騎士のエイリーの服は説明できないな。
いや別にリュウさんにエイリーの服を説明して作ってもらおうとかそんな計画は無いけども……って、
「リュウさん、どこに行くんですか?」
「いやだって梨花さん、これから着替えるわけですから一旦退席しますよ」
「もう付き合い始めたということなんですから別に大丈夫じゃないですか?」
「そんな、だからって着替えているところに同席するなんて恥ずかしいじゃないですかっ」
と慌てるように言ったリュウさん。
何これ、めっちゃ可愛い。急に席席言い始めてちょっと変とは思うけども、こういうこと気にしてくれる男性というのもアリだな。
それなら、
「じゃあ私が着替え終えたら」
「はい、それでよろしくお願いします」
そう言って玄関から外に出て行ったリュウさん。
真面目でお堅いところも似ている……って、漫画のキャラと比べるのはちょっとキモイな、自重しようと思いながら着替えて、リュウさんを呼び戻した。
「どうですかっ?」
と私が軽く半回転すると、
「自分が作った服でどうこう言うの少し恥ずかしいですが、可愛いと思います」
と少し照れくさそうに笑った。それが可愛いんだよ。バカかよ。最高かよ。
でもすぐにまた真面目な顔になって、こう言った。
「……やっぱりちょっと魔力ありますね、別に魔力を増幅させるような服でもないんですが」
「そう言われると、何かちょっと元気が出るような。軽やかな気持ちになるなぁ」
「つまるところ普段着なので、晴れやかな気持ちになってしまっているんだと思います」
「いや、嫌なことみたいな言い方されましても」
「でもこんなに服の魔力を引き出すお方初めてなので……これは本当に俺が作る服、すごいことになるのでは……ソフトクリームにフルーツ全部乗せ的だ……」
何か役に立てそうで嬉しい。アガる。
リュウさんはまじまじと私のほうを見ながら、
「不思議ですね」
また魔力の話が出るんだろうな、と思っていると、
「今まで赤の他人だったのに、こうやって二人きりで部屋に入って。銀髪の女性ももういない。一目惚れした相手と一緒に居られるなんて幸せなことあるんですね」
いや!
「魔力の話わい!」
いつも言わない語尾でツッコんでしまった。
するとリュウさんは微笑みながら、
「どうしても言いたくなってしまって申し訳御座いません。不快でしたか?」
「めっちゃ気分良いわ! ありがとう!」
「それなら良かったです。同じ気持ちで居て下さったみたいで」
「……あの、リュウさん、私もですけども敬語止めませんか?」
私がそう提案するとリュウさんがう~んと斜め上を見てから、
「ならば、敬語にならないように、会話しましょうか」
「その言葉も若干なっているけども、敬語無しでいきましょう」
「分かりました。梨花さん」
「そのさん付けも!」
と言って私がリュウさん、いやリュウを指差すと、
「分かりました、梨花。では梨花も俺のことリュウと呼んで下さい、いや呼んでほしい」
「勿論リュウ! これからよろしくね!」
「はい! 梨花さん! よろしくお願いします!」
リュウの敬語癖強いなぁ、と噛みしめていると、リュウが、
「では魔力の話ですが、やはり梨花は魔力が特殊ですね。本当に服によって魔力が大きく変化するというか。俺は魔力に敏感なほうなのですが、梨花の魔力は不安定というかなんというか読みづらかったです。最初の時、不安そうな表情をしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした」
「いや! 敬語無しの流れからめっちゃ正式な謝罪を述べないでよ! いいよ! もうそういうことは!」
「ちゃんと謝らないといけないかなという気持ちが出てきて、申し訳御座いません」
まあ丁寧な男性も嫌いじゃないけどね。優しく扱ってくれている感じもするし。
でも、
「そんなかしこまった言い方ばかりしなくていいからね!」
「分かりました」
そう言って一礼したので、そういうところだぞ、と思った。まあいいか。最高だし。
リュウは口を開き、
「それでは早着替えの魔法をお教えします」
めちゃくちゃ敬語じゃん、と思いつつも、いちいち指摘していてもアレなので、ここはスルーすることにした。
リュウさんは私のクローゼットを指差しながら、
「あちらから農夫の恰好を取り出してもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
リュウは農夫の恰好を手に取り、それを私に渡してきたので、受け取ると、
「この農夫の恰好を着ているイメージをして下さい。そして同時に今着ている服は魔力の中に押し込んで仕舞うイメージを」
そんな同時に二つのことなんてできるかな、と思いつつも、やってみると何だか一瞬裸になってしまった気がして、
「ああぁぁああああああああ!」
と叫んでしまったが、普通に農夫の恰好をしていた私。
「そんなすぐにできる魔法でも無いんですけどもね、梨花さん、梨花、やっぱり魔法のセンスありますね」
「いやでもこれ失敗していたら裸になったんじゃないんですか!」
「そうなったところは見たことないので、多分大丈夫です」
とニッコリ微笑んだリュウさん。
まあ着替えくらいで慌てる人だから本当にそうなんだろうけども。
何はともあれ早着替えができた私にリュウさんは、
「それにしても、どこかで早着替えしていましたか。才能の塊ですね」
と言われたので、会釈しながら、
「まあコスプレイヤー時代に」
と答えておくと、
「こすぷれいやー……?」
と頭上にハテナマークを浮かべているような反応。
そういう言葉は無いのか知らないのかは分からないけども、伝わっていないようだった。
この異世界にはコスプレイヤーというモノが無いのかもしれないなぁ。もったいない。
リュウはまだ小首を傾げながらも、
「それではこれから梨花さんに、梨花には、今ある服をセットしてもらいたいので、一度着替えてほしいんです」
そう言いながらリュウはどこからともなく服を出し始めた。魔力の中に仕舞っていた服というヤツかな。
最初に私に見せたのは魔法使いっぽい服。
見習い魔法使いの服とは違い、緑を基調とした服だった。
リュウは言う。
「魔法使いの服は基本的にジェンダーレスなので、誰にでも合いますね。後で細かく採寸をイジれますし」
見せたのち、一旦テーブルに置き、また別の服を見せてきた。
「これは僧侶の服ですね、こちらも基本的にジェンダーレスで、ムキムキ過ぎる男性以外は着れますね」
十字架の紋様がある服だ。この異世界でも僧侶って十字架なんだぁ、と思った。
「最後は……いや、大体こんな感じですね。この二つを着替えて、ついでに早着替えの魔法をして魔力の中に入れておいてください。入れたら普段着の服に戻ってください」
「そんな味気ないこと言わないでください。ちゃんと着た後の感想をリュウさんからもらいますから。あと、今何か言いかけました?」
と思ったことをただただツラツラ喋ったら、急にリュウは額から汗をじんわりかき始めたので、
「どうしたの? 何か私、言っちゃいけないこと言った?」
「いえ……その……はい、大丈夫です……」
何か怪しい。というか怪し過ぎる。絶対に何か隠している。
だから、
「何か隠しているなら言ってください。そういう隠し事とか好きじゃない、かなぁ?」
とちょっと揺さぶりをかけてみると、リュウは汗を流し始めて、新陳代謝良すぎかよと思った。
リュウは指で汗を拭きとりながら、
「ま、まあ、ちょっと、面白そうだな、と思って、作った服が、あります……無駄に手を加えたカットフルーツのような服が……」
ちょっと俯きがちで慌てている様子。
面白そうだなと思って作った服って、何?