・
・【見習い魔法使い?】
・
私は着替えるとバルさんと一緒に外へ出た。
見習い魔法使いの恰好は薄い黄色の魔法のローブにふかふかの黄色い帽子。アクセントに赤い線が入っているけども基本的に黄色が基調となっていて、ちょっと危うさのある、見習いだからこそ目立つような恰好だった。
「それで水の魔法を使って下さい」
そうリュウさんが言ったので、私は指先をちょっと地面めに下げて、最大出力を出そうとしたその時だった。
「あっ! ダメ!」
と自分で言いながら、私は最大出力の水を出した。
その水は猛スピードで地面に当たり、ドガンとめちゃくちゃデカい音が鳴った。
気付いた時には雨が空から落ちてきていて、一体何なんだと思った。急に雨が降り出したよ、どういうこと? 私のせい?
呆気に取られているバルさん。一息ついてから冷静に私のほうを見ていたリュウさんがこう言った。
「まず今どうなったか説明します。貴方の出した最大出力は非常に力強く、ほら、あそこの地面が抉れていますよね? それは貴方の水量のせいです」
指先の先にあった地面を見ると、なんと本当に丸く穴が出来ていたのだ。
ゆるい円の穴といった感じだが、間違いなく地面が抉れていた。
リュウさんは続ける。
「そして反射した水が上空に飛び散り、今、雨のように降ってきたんです。もう止んでいるでしょう。これは雨じゃなくて梨花さんの水です」
よく見るとリュウさんはびしょ濡れで、雨も滴る良い男だなと思って、リュウさんのほうを見ていると、
「理解できましたか、梨花さん」
と名前を呼ばれたので、何かデカい声が出てしまい、
「はい!」
と答えてから、すぐに私は続けた。
「見習い魔法使いって見習いでもやっぱりすごいんですねっ! リュウさんが服に込めた見習いの魔力でこんなことが起きるなんて!」
はい、のテンションで、めちゃくちゃ声を荒らげてしまった。ちょっと恥ずかしい、と思って俯いていると、リュウさんがこう言った。
「いいえ、これは見習い魔法使いの範疇を越えています。百リットルのバニラアイスみたいなもんですよ」
「ど、どういうことですか?」
「貴方はどうやら服の能力を最大限に引き出す特殊能力があるんだと思います」
「服の、能力……?」
と言われて最初に思い付いたことが、パジャマになるとやたら寝つけることだった。
そうだ、私ってパジャマになるとめちゃくちゃ眠くなって、あの、最初に転移子とか言われた時も老人に怒られるくらい寝ちゃって。
そのくせ朝になると、朝の時だけは快適に起きれて、って、あれは私がパジャマのポテンシャルを最大限に引き出していたからということ?
あとバスローブの時には使えなかった水と木の魔法が使えるのは農夫の恰好になった時だ。それもつまりはそういうことなんだ。確かに魔法の能力が農夫っぽい。
じゃ、じゃあ……お近付きになる服の素材は無かったのか、と私は肩を落としていると、リュウさんが真剣な表情でこう言った。
「一緒に旅をしてくれませんか?」
「……えっ?」
想像の斜め上を行く言葉に私は生返事をしてしまった。
リュウさんは続ける。
「出来上がった服を魔力の高い人に着てもらうと、その着ている人の魔力に影響されて、より強い服が出来上がるという話をしましたよね? このような特殊な能力がある人は服の価値を爆上げするということが伝承されています。何でもないバスローブに魔力を宿させてしまうくらいの力があると、既に証明されていますし。是非、俺が作った服を着て、俺の服の価値を上げてください」
そんな、そんな、これからリュウと一緒にいられるなんて、そんな! そんな! 当然!
「はい! 一緒に旅をします!」
と言うと、リュウさんの後ろに立っていたバルさんがガッツポーズをしてくれた。祝福してくれて嬉し過ぎる。
「ありがとうございます! 梨花さん! ソフトクリーム百巻きほど嬉しいです!」
スイーツが好きらしく、ちょいちょいスイーツで例えるリュウさん。
それにしてもこの村にはそういうスイーツの類は一切無かったので、旅に出ればそういうモノも食べられるんだなぁ、と思ってワクワクした。
「それでは梨花さん、この村を旅立つことを皆様に宣言したほうがいいのではないでしょうか」
確かにそりゃそうか、と思って村人がよく集まっている畑にリュウさんとバルさんと一緒に行った。
そこで私が旅立つことを説明すると、喜んでくれる人と表情が若干曇っている人がいる。
男性だけが表情を曇らせていると私モテ過ぎだろということなんだけども、女性でも困惑しているような顔がいて、何だろうと思っていると、
「じゃ、じゃあ梨花さんは、もう畑に従事することはできないんですね……」
と言われた時にハッとした。
そうだ、私の水と木の魔法はハッキリ言ってだいぶ頼られていた。
だからそれが無くなるということになって、悲しんでいるんだと。
どうしようと思って、ついリュウさんのほうを見てしまうと、リュウさんがこう言った。
「ではこの村を俺の拠点にします。旅行から家へ戻って来るという感覚で。さらには村人の方々には俺が作った服をプレゼントします。農業に役立つ魔法が使えるようになればいいんですよね。そういった服を作ります」
つまりリュウさんはこの村に住むということか、でもそれって何か、
「それでちょっと旅に出るって、新婚旅行みたいだね」
とつい私は言ってしまった。
言ってすぐ後悔した。調子乗り過ぎだと。
というか別に、服の魔力を上げるという特殊能力が良いというだけの話なのに、そこに色恋沙汰を混ぜた冗談ってかなりオバサンみたいでキモイと即座に反省した。
いや反省したじゃなくて、リュウさんが何か言う前にすぐに挽回しなきゃと思った時にはもうリュウさんの口が開いていた。
「梨花さんが望むなら」
そう真面目な面持ちで私のほうを見て、そして私に対して跪いてきたリュウさん。
いや!
「えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
私は目を丸くするほどに驚いていると、リュウさんはまた立ち上がって、こう言った。
「すみません。俺、梨花さんに一目惚れしていました。その後のやり取りもチャーミングで可愛いし、見ず知らずの俺に親身になってくれて本当に感謝しています」
親身ってそりゃ私も一目惚れしていただけだけども、と思いつつも、
「じゃあ新婚旅行ということで、いろんな街を旅しませんか?」
と私はおそるおそる言ってみると、リュウさんがニコッと笑いながら、
「はい、これから末永くよろしくお願いします!」
と言って、もうホント夢かと思った。というかこんな異世界なんて夢だろとも思うけども、もう何週間もこの村で農業やっているしなぁ。
リュウさんは私の手を握りながら、
「これから、ゆっくりとお願いします」
と言うんだけども、もう手を繋いじゃってるじゃん! とは思った。
リュウさんが村人たちのほうを見ながら、
「ではまず皆様の新しい、魔力の宿った農夫の服を作るために、水の魔力が宿っている石を取りに行きましょう。ホースほどの水ならこの近くでも採掘できるはずです」
と言ったところで村人の一人が、
「できれば植物が生長するような魔法も使えたほうがいいんだが」
と言うと、リュウさんは頷いてから、
「分かりました。木の魔力が宿っている石もですね。俺がこの村から梨花さんを数週間ずつ奪ってしまうという話なので、要望には全て応えますよ」
と力強く拳を握った。
村人たちからは拍手が巻き起こった。
というか私を奪うって、リュウさんになら何を奪われてもいいかも、そんなことを思ってしまった。
じゃあまずその石を採掘する旅に出掛けるのかなと思っていたら、リュウさんが私へ、
「それではまず梨花さんに早着替えの魔法を教えたり、今ある服を説明したいので、一旦梨花さんの家へ戻りますか」
それに対して私は思い切ってこんなことを言うことにした。
「というか、私の家じゃなくて、私たちの家、じゃないですか?」
「確かに! そうですね! これから俺と梨花さんは家族ですからね!」
満面の笑みのリュウさんに鼻血が出そうになった。
こんな猫顔の、鬼神騎士の草薙リュウ似のリュウさんと一緒に生活できるなんて最高過ぎる。
・【見習い魔法使い?】
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私は着替えるとバルさんと一緒に外へ出た。
見習い魔法使いの恰好は薄い黄色の魔法のローブにふかふかの黄色い帽子。アクセントに赤い線が入っているけども基本的に黄色が基調となっていて、ちょっと危うさのある、見習いだからこそ目立つような恰好だった。
「それで水の魔法を使って下さい」
そうリュウさんが言ったので、私は指先をちょっと地面めに下げて、最大出力を出そうとしたその時だった。
「あっ! ダメ!」
と自分で言いながら、私は最大出力の水を出した。
その水は猛スピードで地面に当たり、ドガンとめちゃくちゃデカい音が鳴った。
気付いた時には雨が空から落ちてきていて、一体何なんだと思った。急に雨が降り出したよ、どういうこと? 私のせい?
呆気に取られているバルさん。一息ついてから冷静に私のほうを見ていたリュウさんがこう言った。
「まず今どうなったか説明します。貴方の出した最大出力は非常に力強く、ほら、あそこの地面が抉れていますよね? それは貴方の水量のせいです」
指先の先にあった地面を見ると、なんと本当に丸く穴が出来ていたのだ。
ゆるい円の穴といった感じだが、間違いなく地面が抉れていた。
リュウさんは続ける。
「そして反射した水が上空に飛び散り、今、雨のように降ってきたんです。もう止んでいるでしょう。これは雨じゃなくて梨花さんの水です」
よく見るとリュウさんはびしょ濡れで、雨も滴る良い男だなと思って、リュウさんのほうを見ていると、
「理解できましたか、梨花さん」
と名前を呼ばれたので、何かデカい声が出てしまい、
「はい!」
と答えてから、すぐに私は続けた。
「見習い魔法使いって見習いでもやっぱりすごいんですねっ! リュウさんが服に込めた見習いの魔力でこんなことが起きるなんて!」
はい、のテンションで、めちゃくちゃ声を荒らげてしまった。ちょっと恥ずかしい、と思って俯いていると、リュウさんがこう言った。
「いいえ、これは見習い魔法使いの範疇を越えています。百リットルのバニラアイスみたいなもんですよ」
「ど、どういうことですか?」
「貴方はどうやら服の能力を最大限に引き出す特殊能力があるんだと思います」
「服の、能力……?」
と言われて最初に思い付いたことが、パジャマになるとやたら寝つけることだった。
そうだ、私ってパジャマになるとめちゃくちゃ眠くなって、あの、最初に転移子とか言われた時も老人に怒られるくらい寝ちゃって。
そのくせ朝になると、朝の時だけは快適に起きれて、って、あれは私がパジャマのポテンシャルを最大限に引き出していたからということ?
あとバスローブの時には使えなかった水と木の魔法が使えるのは農夫の恰好になった時だ。それもつまりはそういうことなんだ。確かに魔法の能力が農夫っぽい。
じゃ、じゃあ……お近付きになる服の素材は無かったのか、と私は肩を落としていると、リュウさんが真剣な表情でこう言った。
「一緒に旅をしてくれませんか?」
「……えっ?」
想像の斜め上を行く言葉に私は生返事をしてしまった。
リュウさんは続ける。
「出来上がった服を魔力の高い人に着てもらうと、その着ている人の魔力に影響されて、より強い服が出来上がるという話をしましたよね? このような特殊な能力がある人は服の価値を爆上げするということが伝承されています。何でもないバスローブに魔力を宿させてしまうくらいの力があると、既に証明されていますし。是非、俺が作った服を着て、俺の服の価値を上げてください」
そんな、そんな、これからリュウと一緒にいられるなんて、そんな! そんな! 当然!
「はい! 一緒に旅をします!」
と言うと、リュウさんの後ろに立っていたバルさんがガッツポーズをしてくれた。祝福してくれて嬉し過ぎる。
「ありがとうございます! 梨花さん! ソフトクリーム百巻きほど嬉しいです!」
スイーツが好きらしく、ちょいちょいスイーツで例えるリュウさん。
それにしてもこの村にはそういうスイーツの類は一切無かったので、旅に出ればそういうモノも食べられるんだなぁ、と思ってワクワクした。
「それでは梨花さん、この村を旅立つことを皆様に宣言したほうがいいのではないでしょうか」
確かにそりゃそうか、と思って村人がよく集まっている畑にリュウさんとバルさんと一緒に行った。
そこで私が旅立つことを説明すると、喜んでくれる人と表情が若干曇っている人がいる。
男性だけが表情を曇らせていると私モテ過ぎだろということなんだけども、女性でも困惑しているような顔がいて、何だろうと思っていると、
「じゃ、じゃあ梨花さんは、もう畑に従事することはできないんですね……」
と言われた時にハッとした。
そうだ、私の水と木の魔法はハッキリ言ってだいぶ頼られていた。
だからそれが無くなるということになって、悲しんでいるんだと。
どうしようと思って、ついリュウさんのほうを見てしまうと、リュウさんがこう言った。
「ではこの村を俺の拠点にします。旅行から家へ戻って来るという感覚で。さらには村人の方々には俺が作った服をプレゼントします。農業に役立つ魔法が使えるようになればいいんですよね。そういった服を作ります」
つまりリュウさんはこの村に住むということか、でもそれって何か、
「それでちょっと旅に出るって、新婚旅行みたいだね」
とつい私は言ってしまった。
言ってすぐ後悔した。調子乗り過ぎだと。
というか別に、服の魔力を上げるという特殊能力が良いというだけの話なのに、そこに色恋沙汰を混ぜた冗談ってかなりオバサンみたいでキモイと即座に反省した。
いや反省したじゃなくて、リュウさんが何か言う前にすぐに挽回しなきゃと思った時にはもうリュウさんの口が開いていた。
「梨花さんが望むなら」
そう真面目な面持ちで私のほうを見て、そして私に対して跪いてきたリュウさん。
いや!
「えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
私は目を丸くするほどに驚いていると、リュウさんはまた立ち上がって、こう言った。
「すみません。俺、梨花さんに一目惚れしていました。その後のやり取りもチャーミングで可愛いし、見ず知らずの俺に親身になってくれて本当に感謝しています」
親身ってそりゃ私も一目惚れしていただけだけども、と思いつつも、
「じゃあ新婚旅行ということで、いろんな街を旅しませんか?」
と私はおそるおそる言ってみると、リュウさんがニコッと笑いながら、
「はい、これから末永くよろしくお願いします!」
と言って、もうホント夢かと思った。というかこんな異世界なんて夢だろとも思うけども、もう何週間もこの村で農業やっているしなぁ。
リュウさんは私の手を握りながら、
「これから、ゆっくりとお願いします」
と言うんだけども、もう手を繋いじゃってるじゃん! とは思った。
リュウさんが村人たちのほうを見ながら、
「ではまず皆様の新しい、魔力の宿った農夫の服を作るために、水の魔力が宿っている石を取りに行きましょう。ホースほどの水ならこの近くでも採掘できるはずです」
と言ったところで村人の一人が、
「できれば植物が生長するような魔法も使えたほうがいいんだが」
と言うと、リュウさんは頷いてから、
「分かりました。木の魔力が宿っている石もですね。俺がこの村から梨花さんを数週間ずつ奪ってしまうという話なので、要望には全て応えますよ」
と力強く拳を握った。
村人たちからは拍手が巻き起こった。
というか私を奪うって、リュウさんになら何を奪われてもいいかも、そんなことを思ってしまった。
じゃあまずその石を採掘する旅に出掛けるのかなと思っていたら、リュウさんが私へ、
「それではまず梨花さんに早着替えの魔法を教えたり、今ある服を説明したいので、一旦梨花さんの家へ戻りますか」
それに対して私は思い切ってこんなことを言うことにした。
「というか、私の家じゃなくて、私たちの家、じゃないですか?」
「確かに! そうですね! これから俺と梨花さんは家族ですからね!」
満面の笑みのリュウさんに鼻血が出そうになった。
こんな猫顔の、鬼神騎士の草薙リュウ似のリュウさんと一緒に生活できるなんて最高過ぎる。