・【戦闘服を作るための素材】


 朝一番に農夫の服や農夫の能力が使える凝った服を配ったところで、また私とリュウは旅へ出ることにした。
 今回の旅の目的は戦闘服を作るための素材を手に入れる、だ。
 スーホさん以外にも戦闘ができる人がいたほうがいいということで、そのための素材を集める。
 みんなとバイバイしてから、また早速エイリーの服(チャイナドレス)を着て移動し始めた。
 リュウは風の魔法使いの恰好になって、風を使って移動している。
 今日はまず強い魔物の情報を知るため、ここから一番近い大きな街のギルドに寄る。
 着いた。何かもうあっさり着いた。
 単純にこのエイリーの服が私に合い過ぎているらしい。
 馴染み過ぎているというか、もう十割全に使うことができている。
 速く移動することは一旦辞めて、二人でギルドへ向かって歩いていった。
 すると何だか後ろから、何かバカにするような笑い声と共に、ネチャァとした声が聞こえてきた。
「おい! オマエ! リュウじゃねぇかっ? リュウだよなぁ! おい!」
 リュウよりも先に私が振り返ると、その声の持ち主の男性はこう言った。
「リュウ! オマエに言ってんだよ! つーかツレちゃんが反応しちゃったから完全にオマエじゃん! なぁ! リュウ!」
 その声の持ち主の隣を歩いていた女性が乾いた笑い声を出してから、
「マジで、マジかよ、リュウって本当そういう服作るよねぇ、怖い怖い、アタシのこともそんな目で見ていたのかなぁ?」
 リュウの足は止まったんだけども、黙って俯くだけで。
 私はリュウの顔を覗き込むと、何か耐えるように、歯を食いしばって、苦しそうな顔をしていたので、
「何ですか貴方たちは。何か嫌な感じですね」
 とハッキリ言うと、ネチャネチャ喋る男性がこう言った。
「いやいやいやぁ、だってリュウだろうぅ? その情けない後ろ姿はリュウそのものじゃん! 服の力でしかバトルできない弱々しいリュウくぅん? 聞いてるぅー?」
 私は何か納得いかなくて、
「じゃあ人違いじゃないですか? リュウはめちゃくちゃ強いですから」
 と言ったところで、女性のほうがバッと距離を詰めてきて、リュウの顔を見ると、吹き出してから、こう言った。
「やっぱりリュウだよぉ! あれあれあれ? 新しいパーティ? できたんでちゅね~、偉いでちゅねぇ~」
 そう言って頭を撫でようとしてきたので、私はその手を振り払った。
 するとその女性がこっちを睨んできて、こう言った。
「ちょっと失礼でしょ? ちゃんと昔のパーティは最強だったって教えてあげないとこの子、今、痛い目に遭うわよ?」
 と言ったところで後ろから殺気を感じたので振り返りながらも、後ろへバックステップをすると、なんとさっきの男性が私に向かって蹴ってきていた。
「えっ! 突然蹴るほうがヤバくないですかっ?」
 私が驚愕しながら言うと、その女性と男性が私を挟み撃ちするように立ち回って、
「リュウ? アンタ、ヘタレだからさ、何もできないだろうからアタシとシシカバでこの子フルボッコにするね? 何かムカつくからさぁ?」
 と女性のほうが言ったところで、リュウが私と背中合わせで立って、こう言った。
「止めろ、梨花さんは関係無い。やるなら俺をやれ」
 すると私の目の前にいるシシカバという男性がこう言った。
「止めろ、ねぇ……そんな口の利き方、元パーティによくできたなぁ? ヘタレのリュウをさ、守りながら闘うの大変だったんだよなぁ?」
 女性のほうも何か喋り出した。
「というかさぁ、君も可哀想だよねぇ、そんな変態の服を着させられてさぁ? リュウの趣味に付き合わされて最悪だよねぇ?」
 えっ? このエイリーの服の良さが分からない? ダサ過ぎる。
 というかもう私は怒り心頭だ。
 本当はリュウが返り討ちにしたほうがカッコが付くんだろうけども、私は我慢できない。
 本気の速度を出してみることにした。あくまで速度だけは。
 今まで移動する時はリュウの風魔法に合わせていた部分もあったけども、ここはもう瞬発的に本気の感覚を。
「ハッ!」
 私は地面を蹴ってまず目の前にいるシシカバと言われていた男性のほうへ飛び膝蹴りをした。
 そのシシカバというヤツは一切目線をズラすことなく、真正面を向いたまま私にアゴを蹴られていた。全く反応していない。
 着地したところですぐにターンして、女性のほうへ向かって、腰を狙って蹴りを繰り出した。
 その女性も何も起きていないような顔をして、全く動かなかった。
「ふぅ」
 リュウの隣に戻ってきて、ちょっと溜息をついたところで、シシカバと女性が吹っ飛び始めた時に私は「あれ?」と思った。
 もしかすると今の私の動き、速すぎた……? いやでもそんなに……? まるでエイリーの神速じゃん、と思っていると、シシカバと女性は鈍い声を上げた。
 すると、周りにいた通行人たちが拍手し始めた。
「すごい! 何か知らんがすごい!」
「いや、おれは見えたね、あのチャイナドレスの子が二撃与えたんだよ」
「いやいや! 見えなかったよ! あの男のほうも何かしたんじゃないか!」
「そうだよ! だってあの子と挟み撃ちの連中は距離があったじゃん!」
「いや、おれは見えたから、多分そうだと思うぜ?」
 何か盛り上がっている……そして悪い気はしない、とちょっと悦に浸っていると、リュウが私の両肩を掴みながら、こう言った。
「すごい! さすが梨花さんだ! 高級バニラを使ったジェラートだ!」
「違うよ! リュウが作ってくれた服が最高だからだよ!」
 と言ったところで、さらに拍手が大きくなった。
 ひゅーひゅーとかも聞こえる、異世界にもこういうタイミングのこういう指笛あるんだ。
 私とリュウは通行人に会釈をしながら、ギルドへ入っていった。
 するとカウンターにいるお姉さんから、
「あたし、千里眼で見ていたよ。すごい女の子捕まえたね、リュウ。もうあんな最悪な二人組とつるまなくて良くなったんだ、良かった良かった」
 何かリュウの過去を知っていそうなので、
「リュウってどうだったんですか?」
 と言ったところで、すぐにリュウが焦ったように、
「ま! まあ! とりあえずギルドで強い魔物の情報を教えてもらおう! ほら! 千里眼で見ていたならこっちのレベルも分かっているでしょ! 素材を集めているんだ! よろしく頼みます!」
 カウンターのお姉さんはフフッと笑ってから、
「過去はリュウから直接聞いてくださいね、強い魔物の情報は大体こんな感じかなぁ?」
 と言って目の前に、AやらSやら書かれた紙を見せてくれた。
 カウンターのお姉さんは続けて、
「魔物討伐が目標ではないんだよね? ならこのSランクのアズール山がいいんじゃないかな? 魔物が魔物を生んでいるし、ちょうどいいんじゃないかな? だってさ、リュウは本当は強いわけだし、この女の子に至っては既に最強ランクじゃない? あの中では通行人に紛れていたヘルカオさんしか見えてなかったみたいじゃない。でもリュウは見えていたんでしょ? 勿論私もだけどね!」
 あっ、何か通行人の中にいた「おれは見えていた」オジサンも有名な人だったんだ、とか思っていると、リュウは私のほうを見ながら、
「それなりに危険が伴う地帯だけども、梨花さん、梨花、大丈夫ですか?」
「勿論! 私はリュウが居ればどこでも大丈夫だよ!」
 というわけで私とリュウはこの近くにあるアズール山という山へ行くことにした。
 果たして、どんなことが待ち受けているのだろうか……の前に、移動中、私は気になっていたので、リュウのことを聞くことにした。
「リュウ、あの人たちって何だったの?」
「……昔のパーティだよ」
 ちょっと言いづらそうに、口を開いたので、あっ、でも、と思って、
「いややっぱりいいや、私は今のリュウだけ知っていればそれで十分だ。私のリュウはこの目の前にいるリュウだけなんだから」
 これで終わらせた、と思っていたんだけども、リュウがまた喋り出した。
「俺がさ、敬語がちなのはパーティを追放されたことがあって、そこからあんまり人に対して強く出られないんです。だからほら、今も敬語になっちゃったりして、そういうことがあったからだから、その、ゴメンなさい、対等に喋られなくて」
「人に対して強く出る必要なんてそもそも無いよ、というか私は温厚な今のリュウが好きなの。敬語とかは後からじっくりやっていくとして、あんな腹立つこと言われても手を出さなかったリュウは偉いと思うよ」
「いや、その代わりに梨花さんのことを頼ってしまって……」
「あれは私が勝手にキレただけ! それに自分の本気の速度も分かってちょうど良かったよ! リュウは何もできなかったわけじゃない! 絶対そう!」
「でも」
 と言ったところで私は矢継ぎ早に答えた。
「私のことを信じて! 私の言うことが真実だから!」
「ありがとう……俺は梨花さんに助けられてばっかりだな、好きだよ、梨花、さん」
「別に! 何も助けていないし!」
「いや梨花さんが一緒に居てくれるだけで俺は助けられているよ」
「それはお互い様だからね! というか私のほうがリュウのこと好きだから! 覚悟していてね!」
「覚悟していてって何をっ」
 と言って笑ったリュウの顔が可愛くて、やっぱり私のほうが好きだなと改めて確信した。
 そんな会話をしていると、アズール山の麓に着いた。
「さぁ、梨花、ここから魔物をどんどん倒していこう。無理はしないでね」
「勿論! リュウもだよ!」
 するとリュウは風の魔法使いの恰好から剣と盾を持った勇者の恰好に切り替わって、何だか表情も凛々しくなって一段とカッコ良くなった。
「何でその恰好っ!」
 と興奮しながら尋ねると、リュウは、
「強い魔物には一撃が大きい剣士スタイルのほうがいいんです。梨花さんは遠距離魔法もできますよね? 俺の後ろに居て、援護してください」
「前線も大丈夫だよ!」
「いや、最初なのでまずは魔物のパターンを覚えてください。魔物はタイプによって思考にパターンがあるので、それを感覚的に学んでください」
「分かった。リュウの言うことだから全部信じるね!」
「ありがとうございます」
 そう言って私とリュウは二人セットで、バトルを開始した。
 魔物は続々とやってくるんだけども、どんどん倒しては素材をゲットしての繰り返し。
 リュウの言う通り、魔物には何だかパターンがあって、まるでゲームのようだった。
 ちょっとプログラミングされているような感じ。
 弱い魔物はスーパーファミコンといった感じで、強い魔物はニンテンドースイッチの大型プロジェクトって感じ。
 まあリュウは強いし、私も思った通りに体が動くので、楽勝だった……と、その時だった。
 山の奥のほうから逃げてくる武道家の集団が私たちの脇を走り去って行きながら、
「ヌシだ! 逃げろ! オレたちについてきてしまった! まさか麓まで降りてくるとは!」
 と私とリュウに言ってきた。
 私は小首を傾げながら、
「倒しても大丈夫なヤツですか?」
 と聞くと、
「倒せないんだよ! 逃げろ! とにかくオマエたちも逃げろ!」
 と武道家が言ったところで、その真後ろに人型なんだけども、黒紫の煙を纏った、明らかに魔物がいて、その魔物がその武道家に対して首元を掻っ切るように引っ掻こうとしていた。
 危ない、と思ったその時にはリュウが尖った氷の斬撃みたいなのを飛ばしていたみたいで、魔物の引っ掻こうとして腕にヒットして、なんとか武道家を守った。
 リュウは私の隣に来てから、
「この山のヌシ、つまりSランク依頼のボスですね」
 武道家は震えながらその場に腰を抜かして、
「終わりだ! もう終わりだ! この距離は!」
 と叫んだ。
 リュウは即座にその武道家の肩を掴んで、後方に投げ飛ばした。
 ちょっと荒々しかったので、
「今の大丈夫っ?」
 と聞くと、リュウは、
「アズール山にいる武道家なんだから、この程度のぶっ飛ばしは大丈夫。それよりもこの魔物を退治しよう」
 と言い終えた直後に魔物がリュウに向かって鋭い爪で引っ掻こうとしているのが見えたので、私はエイリー風の神速を使うことにした。
 まずアゴに膝蹴り一撃、眉間に正拳突き、鼻と口の間に人体急所・人中にエルボーの三連撃。
 正直リュウをバカにしていたバカ二人組の時は同じ人間だし、多少力をセーブしていたんだけども、今の相手は魔物だから制限ナシで全力をぶち込んだ。
 仕上げに、まず思考する時間が欲しかったので、喉仏にキックを前方に吹き飛ばすイメージで繰り出した。
 人型をしている魔物なので急所が分かりやすいなぁ、と思いつつも、その一般的な知識の急所で合ってるのかなとは思った。
 さて、遠くに吹っ飛ばしたので、こっからリュウと会話をして、どう闘うか考えようと思ったその時だった。
「ぐわぁぁああああああああああああああああああ!」
 その魔物は声を上げて、消えていった。
 でもここから最終形態になるはず、と思って、
「リュウ! これからどうする!」
 と私は声を荒らげると、リュウは黙って魔物がいたほうを見ているだけで。
「リュウ! こっからが勝負なんでしょ! 最終形態の出方を見てから闘う?」
「いや……梨花さん、梨花……宝石が出たということはもう勝ったよ……」
「えぇっ? これで終わりぃぃいいいっ?」
「いやもう今の梨花さんの動きは俺でも見えませんでした。すご過ぎる……」
 でもエイリーってこんな感じだしなぁ、と思っていると、私たちの後方で震えていた武道家が、
「破壊の天使だ……」
 と呟き、それエイリーの二つ名じゃんと思って嬉しくなった。
「梨花さん、図らずもこのアズール山のボスを倒しました。強い魔物の出現も少なくなるはずです」
「えぇっ? じゃあもう逆に素材は集まらないのっ?」
「いえ、そういうことを気にする必要はありません。それに俺たちの分の素材は山ほど手に入りましたから大丈夫でしょう」
 そう言ってその魔物がドロップした素材をかき集めたリュウ。
 まあ魔物がいなくなればそれでいいというわけか、良かったぁ、いけないことしたんだと思っちゃった。
「それでは梨花さん、一旦ギルドへ戻って報告をしましょう。武道家さんも一緒に帰りましょうか」
 リュウは腰を抜かした武道家を背負って、一緒にギルドへ移動しようとしたその時だった。
 私はさっきの反動か何かで、異常にスピードが出てしまい、移動の足並みが合わなくなってしまった。
「リュウ! どうしよう! リュウに合わせるの大変! いや! リュウが悪いんじゃなくてね!」
「分かっていますよ、それなら梨花さんは先にギルドへ戻っていてください」
「嫌だよ! 私はリュウと一緒に居たいもん! どうにかして!」
「多分ですが、そのチャイナドレスはもう戦闘専用になってしまったんですね。魔力の相乗効果により。なので他の服に着替えてください。まあ慣れればまた大丈夫なんでしょうけども、今は武道家さんもいるので慣れるのはまたあとにしましょう」
「そっか! そうすればいいんだ!」
 私はストックしていた見習い魔法使いの恰好になった。
 でも、
「この服、あんまり可愛くない……」
「大丈夫ですよ、梨花さんが可愛いので何を着ても可愛いですよ、どんなトッピングも似合うパフェですよ」
 そう微笑んだリュウ。そういうリュウが可愛過ぎる。
 いやでも、
「そういうことじゃないんだよなぁ、服は自分アゲでもあって」
「それなら一旦家に戻ったら、梨花さん、梨花が着たい服を作りましょう!」
「ありがとう! リュウ!」
 みたいな会話をしていると、武道家がちょっと退屈そうに溜息をついた。
 そうだ、邪魔者がいたんだった、あんまりイチャイチャしないようにしなきゃ、と思っていると、リュウが、
「服は自分アゲという言葉、俺も気持ちよく分かりますよ。服を作るための初期衝動ってそうでしたから。やっぱり梨花と同じところが多くて、すごく嬉しいです」
 そう何だか照れ笑いを浮かべたリュウ。
 いやそういうハグしたくなるような感じ出すなよ、今はイチャイチャできないんだってば。
 ギルドに戻って報告すると、ギルドのお姉さんは勿論、ギルドにいた人たちもみんな驚愕していた。
 でも武道家が本当だということを証明してくれて、この人やっと役に立ったなぁとかちょっと失礼なことを思ってしまった。
 その後、私とリュウは自宅に戻ることにした。