・【旅】


 とある、多分みんなが集まっている畑に居なかった村人が私に向かって、こう言った。
「いやぁ、梨花ちゃんがこの村にずっと居てくれると安泰だぁ」
 うっ、と思ってしまった。
 何故なら私はこれからリュウと旅に出ようと思っているから。
 というわけで私はその場にいた村人たちに、改めて私がリュウと旅に出ようと思っていること、その前に私がしていたことをみんなもできるようにと、性能の高い農夫の服を作るための素材集めに行くこと、を、改めて伝えた。
 みんなそれなりにガッカリしてくれるところが正直嬉しい。それくらい信頼していてくれていたということだから。
 そんな落ち込む村人たちにリュウはこう言った。
「最近、魔物が強くなっているという情報があり、実際この村にも来ていました。そこで、自衛のために誰か一人に戦闘服を渡します。上級魔法使いの服です」
 するとすぐさま、ジャガイモを火入れすることができるヒロさんが手を挙げて、
「この村で魔法なら俺だろ!」
 と叫んだ。
 でも即周りから、
「いやオマエは絶対に調子乗る」
「独裁者になるかもな」
「ちょっとオマエはマジでダメだな」
 と言われて散々だった。
 ヒロさんは黙って俯いてしまった。いや図星なのかよ、図星だったらちょこちょこ良くないだろ。
 そこで一人の村人が、
「魔法オタクのスーホがいいだろう」
 すると次々と村人たちが、
「確かに、正しい魔法の知識もあるしな」
「スーホなら安心だ」
「スーホは良いヤツだし、農業にも積極的だからなぁ」
「やっぱり真面目なヤツに着てもらいたい」
 魔法オタクの男性、スーホさんは後ろ頭を掻いて照れながらも、
「僕でいいのかい?」
 と言うと、
「勿論!」
「オマエしかいない!」
「スーホが適任だよ」
「これからよろしく頼むよ」
 と声が上がり、結構即決した。
 リュウは服を取り出して、それをスーホさんに渡し、
「それでは基本的な魔法の扱い方と早着替えの魔法をお教えします。梨花はちょっと休んでいてください。着替えなどもあるので男性二人で行なったほうが早いと思いますので」
 そう言ってリュウとスーホさんは多分スーホさんの家へ行った。
 ちょっと暇になったなと思っていると、一人の村人がこう言った。
「梨花! めっちゃ可愛い服だけど何なんだっ?」
「これはリュウが作った服で、私って服の能力を引き出すことが上手いみたいでこの服を着るとめっちゃ強くなるんだって」
「すごいなぁ! すごいシステムだなぁ!」
 システムて、と思った。
 その後は村人たちから質問攻めを受けて、何かチヤホヤしてくれて楽しかった。
 リュウとスーホさんもやって来たところで、リュウが放置されていた魔物の素材を見てから「あっ」と言って拾いに行ったので、私もついていくと、リュウが、
「ちょうど良かった。こういう素材とかは早着替えの魔法の服みたいに、魔力に仕舞うような感覚で触れると貯蔵できるんだ」
 言われた通りすると私にも簡単にできた。
「梨花、変わった素材があったらどんどん集めてほしい。でも何が変わっているかよく分からないはず。俺も分からない。だから拾えるだけ拾ってほしい」
 そんな細菌の学者みたいな方法でやっていくんだ、と思った。
 村人たちとの会話もそこそこに、ついに、
「それではみんな! 私はリュウと最初の旅に出掛けるから!」
 リュウも村人たちへ手を挙げながら、
「まずは良い農夫の服を作るため、近くの山へ木の魔石を集めに、そのあとに海へ水の魔石を探しに行きます」
「さながら新婚旅行だね! リュウ!」
「そうですね、梨花」
 私とリュウは仲良く村の外へ出た。
 村の外には一体何があるのか、正直心臓が高鳴っていた。
 私はそのままチャイナドレスというかエイリーの服で移動し、リュウは魔法使いのような恰好になって風魔法で移動している感じだ。
 リュウの服はローブといったふんわりと着こなす感じではなくて、体にピッタリとついている、ダイビングスーツのような服で、筋肉の隆々さが分かる感じで自信満々かよと思った。
 そんなリュウのスタイルに惚れ惚れしながらも、すぐに魔物が出現するのかなとか思って注意しながら移動していたんだけども、特に何も無く、野生のイノシシのようなモノが走っていたりするだけで、案外平和なんだなぁ、と考えていると、リュウが、
「魔物、いると思っていましたか?」
 もう、私の考えていることすぐ分かるんだから、以心伝心かよ、と思いながら、
「うん、魔物にすぐ襲われると思っていた」
 と答えると、
「魔物は最近活発的になってきましたが、そんなにいないんですよ。魔物は子育てとかもしませんし。突然出現するモノなんです」
「そうなんだ、魔物には魔物の暮らしがあると思っていた」
「何故出現するかは分かっていないのですが、大半はこの世界の中央の街、ギラダで出現します。このあたりは辺境なので、魔物はほとんど出現しないことになっています」
「でもさっきいたけども」
「最近はぐれ魔物が多くなってきて、魔物を討伐する精鋭部隊も疲弊しているという話です。ギラダを中心に活動しているらしいんですけども」
「そうなんだぁ」
 と興味あるような、無いような。
 正直リュウと一緒に居られればいいかなと思っているから。
 ただリュウは続ける。まあ知っていたほうが有利になるということなんだろう。
「魔物はウィルスのようなモノで百害あって一利無し。いたら倒していいモノです。魔物はいつも黒紫のオーラを放っています。それ以外の生物は魔物ではありません。そこに住んで生活しているので乱獲厳禁です。なので基本的に俺は素材として植物を集めます。植物は簡単に育てることもできるので、素材としてもらった分で育てるといった感じです」
「なるほど、じゃあ生物は倒さないほうがいいわけね」
「はい、村のしきたりで守り神と信じられている場合もありますので。ただ魔物はすぐに倒してしまって構いません」
 でもこれ、最初に知っておいて良かったかも。
 リュウに褒められたくて、生物を乱獲していたら、嫌われていたかも。
 やっぱりリュウの話は絶対ちゃんと聞いておくべきだと思った。いや元々そうするつもりだけども。
 野を越えていくと、山の麓に着いた。
 リュウは立ち止まって私のほうを向き、
「じゃあこれからゆっくり歩いていこう」
 と言って私の手を握ってきたので、
「そ、そういうデート的なことっ?」
 と聞いてみたんだけども、どうせはぐれないようにとかだと思っていたら、
「はい、新婚旅行ですから」
 とニッコリ微笑んで、一気に心音のペースが上がってきた。
 あっ、そういうの、そういうこともするんだ、リュウって。最高かよ。
 でも、
「バラバラになって動いて、いろんなモノを探したほうが効率的じゃないの?」
「いや本命の魔石はそもそも夜にならないと見つけづらいんです。魔石は暗いところで光り出す性質があるので」
「じゃあ昼間は珍しそうな素材を集めるということ?」
「それもそうなんですが、それよりもまったりキャンプでもしませんか? もうちょっと上のほうへ行ったらですけども。だから今はピクニックですね」
 そんなゆったりしてもいいのかなとも思ったけども、魔石は暗くならないと見つからないという話だし、まあいいか、むしろ今を楽しんだほうがいいかもと思った。
 私はリュウと手を繋いで、山をゆっくり登り始めた。
 ちょっと急な坂道だとは思うんだけども、このエイリーの服を着ていると本当に軽々移動できて、全然苦じゃない。
 疲れが無いというか、これだと夜眠れるかなとどうでもいいことが不安になった。いや夜は活動するんだ、今日は。
 リュウは手を握っていないほうでどこかを指差して、
「あれは蜜花だ、素材としては普通だけども吸ってみると美味しいんですよ。天然のスイーツですね。こういう野の食べ物とか食べられるほう?」
 正直私は田舎育ちなので、全然余裕である。
 でもここはちょっと可愛い子ぶって、苦手かもとか言いながら上目遣っ、あっ、ヤバッ、めっちゃ良い香り、これはもう、
「めっちゃ食いつくします」
 とヨダレ垂れかけの口でそう言い放った私。あらヤだね。
「いや食いつくしたらダメですけども、ちょっとくらいなら頂いても平気なので吸ってみましょう」
 そう言ってリュウに連れられるまま、私はその蜜花の元へ行った。
 蜜花はラフレシアくらい大きい花で、でも香りは金木犀のように爽やかな香りで、おしべ・めしべの根元から蜜が湧き出ているように溢れていた。
 溢れているところはちょっとヨダレが垂れそうな私の口っぽい。
 リュウが蜜花の花びらを触りながら、
「野が苦手なら上澄みの蜜を捨てたりするんだけども」
 と言ったところで私はカットインして、
「もったいない! 全部吸います!」
 と言うとリュウは吹きだして笑った。
 さすがにがっつきのダサさがあったかと思って、ちょっと反省していると、リュウが、
「野のモノでも、もったいないと思ってくれる人、俺は大好きだよ」
 と言ってくれて、何だ、自己肯定感上げてくれるだけかよ、と思った。
 リュウは続けて、
「俺たちはこういった素材を自然から頂いている身ですからね、しっかり感謝しないとダメですよね」
 そう言ってリュウはどこからともなくコップを取り出して、そこに蜜花の蜜を入れて私に渡してくれた。
 蜜花の蜜は黄金色に輝いていて、というか金木犀の花の色に似ているイメージ。もしかしたら金木犀なのかもしれない。
 私は早速その蜜を吸うというか飲んでみると、さらさらと飲み込める蜂蜜といった感じで、とても甘く、心の奥から癒される後味だった。
「リュウも飲む?」
 そう言って私はコップを渡そうとすると、
「有難う」
 と言って受け取ってそのままそのコップで飲んだ。
 その時に、あれ、間接キスという概念あるのかな、と思ってしまい、探りを入れる感じで、
「あっ、同じコップだったけども良かった?」
 と聞いたところでリュウは笑顔で、
「俺は大丈夫ですよ、梨花の全てを受け入れていますから」
 と言って笑って、何だか私のほうが恥ずかしくなってしまった。そんな言い方されるなんて、えっちかよ。
 ただそのあとすぐにリュウが、
「でも確かに俺が飲んだ後は梨花、嫌かもしれませんね。じゃあ別のコップを」
 と言いながらまたコップを出したので、私は首を横に振って、
「いや洗い物増えると大変だから一緒でいいよ!」
「でも水魔法で簡単に洗えますから、洗い物は気にしないでください」
 洗い物と言っちゃったことにより論点ズレちゃったな、と思いつつ、私は、
「洗い物じゃなくて本当は私も共有で良いという意味で! だって私だってリュウのこと受け入れているから!」
 と言うと、急にリュウは顔が真っ赤になって、
「そ、そうですかっ、な、何だか照れますね」
 と言って、てへへへと微笑んだ。そんな少年のような顔がたまらなく可愛かった。
 何かこの可愛い顔をもっと破顔させたくなってきて、私はリュウからコップを奪い、また蜜を飲んでから、
「おいしいね!」
 と言ってみると、リュウは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
 いや、
「こっち見てよ、リュウ。私のこと可愛くないの?」
「可愛すぎるから直視できません」
「ちょっとぉ、私に慣れてよぉ」
 と甘ったるく言ってみると、リュウは私のほうを見て、
「でも一生慣れたくありません。ずっと新鮮な気持ちのまま梨花さん、梨花と一緒にいたいです」
 と言って微笑んで、私の負けかよ、と思ってしまった。めっちゃ可愛い。最高。
 そんな感じでイチャイチャしていると、段々熱く感じてきた。
 最初はここまでラブラブかよと思っていたんだけども、どうやら本当に気温が上がってきたらしい。
 するとリュウが、
「この辺でテントを張って休みますか」
 と言いながら、リュウはすぐにテントをその場に出現させた。
 大きめの、グランピングのような、四人家族が休めるくらいのサイズだった。