「ローレッド様なら、大丈夫です!」

「信頼度高すぎだろ」

「最終的には、ローレッド様の顔を推していきましょう!」

「ふっ、了解」


 歴代のオーディションを研究した限りでは、傷ついた勇者様の治癒をする聖女様という構図が成立している合格者がほとんどだった。


(でも私は、傷ついたローレッド様を回復する術を持たない……)


 ほとんど活躍のない勇者様という印象を与えかねない私の作戦に、最初は反対されると思っていた。

 けれど、ローレッド様は出会って間もない私に絶大な信頼を置いてくれている。


(その信頼に応える働きをしたい……)


 前世は、魔王様の役にも立たずに人生を終えてしまった。

 今回の人生では、自身の毒耐性を役立てるための力に変えていきたい。


「ありがとうございました」

「もしも食中毒や食あたりが起きた場合は、こちらまで連絡をください」


 高身長に、ずっと眺めていられるくらい美しい容姿は人々を魅了する材料に繋がる。

 そして、相手の心に入り込むのが上手いローレッド様と手を組んだのは大正解。

 次々と私は、毒耐性を必要としてくれる人たちと出会うことができた。


(本当に聖女になれちゃうかもしれない……)


 私とローレッド様が書き込んだ情報が地図に反映されているようになっている魔法具を使いながら、私は順調に救いを求める人の数を稼いでいく。


(って、このまま上手くいけば……私はローレッド様に復讐を……?)


 まだ勇者と聖女に選ばれたわけでもないのに、ローレッド様と一緒にいればなんでもできそうな気がしてくる。

 聖女と呼ばれる縁のない職業とも、ローレッド様なら縁を結んでくれるような気がする。


(けど……)


 勇者候補と聖女候補が2人で行動しなければいけない理由。

 それは、オーディションが開催されるたびにネックレスの盗難事件が起きるから。

 オーディション参加者同士の妨害工作から身を守るため、勇者候補の人とは常に行動を共にするよう言われている。


(私を守ってくれる勇者様候補は、傍にいない……)


 常に自分がネックレスを身に着けているか気にしてはいるものの、ここで誰かに襲われるなんて妨害行為が起きたら対応できない。


(早くローレッド様と合流した方がいいのかもしれな……)


 傍にいないローレッド様を想って、首に飾られたネックレスに手をかけたときだった。


「え……」


 ネックレスがない。

 常にネックレスが奪われないように細心の注意を払っていたにも関わらず、突然身に着けていたネックレスが姿形をなくしてしまっている。