「で、どんな復讐をするんだ?」


 顔が熱くなってきていることなんて知ってから知らずか。

 ローレッド様は、話を出会った頃の振り出しへと戻す。


「……毎日こつこつ、ご飯に脂肪の多い食品を混ぜ込みます」

「…………は?」

「気づかぬうちに脂肪を摂り過ぎた勇者様は、ぷっくぷくに太って世間の笑いものになるんです!」


 勇者様を殺害するなんて大罪を犯して、私が罰を受けるなんて目には遭いたくない。

 ささやかながらの嫌がらせを通して、私は前世の勇者様へと復讐する。


「ほかにも、勇者様の寝床に油っぽい食べ物を仕込んで、シーツやお布団を油でぎっとぎとに……」

「ふっ」


 こっちは真面目に話をしているのに、話の途中でローレッド様は笑いを堪えきれずに息を零した。


「なんで油系の嫌がらせばっかりなんだよ……ははっ」


 その瞬間。

 この人は決して笑わないんじゃないかって印象を与えていたローレッド様は、私が見惚れてしまうくらい素敵な笑みを向けてくれた。


「……ささやかな復讐って、意外と難しいんですよ」

「はー、はいはい。今度の聖女様は、馬鹿っぽくて親しみやすいな」


 馬鹿って言われていることに反感の意を示したいところだけど、ローレッド様が魅せてくれる笑顔があまりにも綺麗すぎて心が変な動き方をする。


(私には、魔王様っていう大切な存在がいるのに……)


 次世代の勇者様と魔王様が、前世持ちとは限らない。

 前世持ちだったとしても、私が《《知っている》》勇者様と魔王様ではないかもしれない。


(それでも、私は……)


 今の人生で、大好きな人に会いに行くと決めた。

 今の人生で、大嫌いな人に復讐すると決めた。


「ほら」

「はい……ひゃぁ」


 首元に、冷たい何かが触れる。


「動くなよ」

「な……何を……」


 首元にやってきたのは、どこかのご令嬢様が身に着けているような赤い宝石があしらわれたネックレス。

 本物の宝石ではないと思うけれど、太陽の光を透過させるほどの透明度を誇る赤に私は心を奪われた。

 
「動いたら、髪が巻き込まれる」


 髪の毛を除けるためと分かってはいても、ネックレスを付けてもらう際にローレッド様の指が首筋をときどきかすめていく。


「く……くすぐった……いぃ……」

「変な声、出すな」

「すみませ……ひゃっ」

「これがカウンター代わりになるらしい」


 身分不相応な品を自身が身に着けていることに戸惑ったけれど、ローレッド様の一言で私の思考は一気に現実へと戻ってきた。


(そうだよ……いきなり贈り物を贈られるような仲になるわけがないのに……)


 勇者・聖女を選抜する方法は、いつもとても簡単なもの。

 指定された時刻までに、1人でも多くの人を救うこと。

 救いの質は問わない。

 1番人数を稼いだ人が、勇者と聖女に選抜される。