「はい……あ、もしかして食中毒が発生してしまった……」

「ううん、今ちゅーけいで、お兄ちゃんが呼んでたよ」


 ちゅーけい?


「あ、中継ですね!」


 離れている場所の映像を見るための魔道具が、この子の家にはあるのかもしれない。


「えっと……えっと……その映像はどうやって見れば……」

「こっち」

「ありがとうございます」


 男の子に招かれて民家を訪れると、昼間に訪問した優しそうなご家族が私のことを迎え入れてくれた。

 私が食品に宿り始めていた毒を体内に取り入れたおかげで、それはそれは美味しい夕食を味わうことができたと話をしてくれる。


「フェミリアちゃん、こっちに魔道具があるんだけど……」


 ネックレスを奪われておきながら、なんて平和な世界を生きているんだろうと思った。

 平和な世界を生きることができるだけでも嬉しいのに、私の名前を呼んでくれる人たちと出会えたことは私に大きな喜びをもたらす。


『第173代勇者ローレッド・ドフリーは……』


 魔法具越しに、久々にローレッド様の顔を拝見する。

 幸せを感じすぎた涙腺が弱ってきているせいで、ローレッド様の顔を見るだけで泣きたくなってくる。

 待ち合わせ場所に行くことができなくて、ごめんなさい。

 たくさん協力してくれたのに、合わせる顔がないような事態を招き入れてしまってごめんなさ……。


『第157代聖女のフェミリア・ウィネットとの婚約を発表する』


 一瞬、時が止まったような錯覚に陥った。


「…………ええ!?」


 ローレッド様の言葉を受けて、叫び声を上げたのは私だけではない。

 私を招待してくれた男の子の家族。そして勇者就任会見が行われている会場を訪れている記者や観客の人たち。

 みんながみんな、謎の悲鳴を発したと思う。


『もしやお2人は、恋人同士……』

『いや、俺の片想いだ』

『えーっと……?』


 多くの記者がローレッド様に詰め寄るけれど、ローレッド様は相変わらずご自身の感情を顔に出さない。

 困惑しているだろう記者さんと観客の人たちを助けに行かなければいけないと思って、男の子の家を飛び出そうとするけれど……。


(助ける……? 私が……? どうやって……?)


 心では、そんなことを思っている。

 でも、体が先に動こうとした。


『勇者の任を全うすることで、フェミリアの心を射止める』


 私は、ローレッド様の1番の理解者だと言わんばかりに身体が反応を示す。


『俺を好きになってもらえるように、これから努力していく』


 その日、勇者からの愛の告白が多くの国民の心を打った。

 割れんばかりの拍手って、こういう音のことを言うんだと……私は一生分の拍手と言っても過言ではない祝福の音が聴覚に鮮明な記憶として刻まれた。