私が「21時以降のお菓子卒業!」し、美月が「バイト卒業!」した1月下旬。
『#卒業日カレンダー』も卒業報告が溢れだした。

 小さな目標が多かったこともあって、卒業できた人がほとんどだ。
『#卒業日報告』と合わせて、カレンダーに丸をつけたり、シールを貼ったりする報告動画が流れてくる。

 やっぱり形から入りがちな私はシールを購入した。ブルーの桜のシールを発見したときに、これだ!と思ったんだ。私の名前の「さくら」に、卒業で連想される「桜」、そしてペールブルーと銀色の手帳に馴染む淡いブルー。

 私は1月20日の「21時以降のお菓子卒業!」の上に、ブルーの桜のシールを貼った。
 目標にシールを貼って喜ぶなんて、子供の頃みたいだ。小学生の頃のドリルは1ページごとに「できたよシール」を貼っていたっけ。


「やっぱり次はバレンタインに向けてが多いなあ」

 そう呟いた美月のスマホを横から覗きこむと、たくさんの「2月」「February」のカレンダーが見える。
 いくつかの投稿を開くと、かわいい恋の歌に合わせて『バレンタインに勇気出せない私からの卒業』『お菓子作り失敗から卒業』と手書きの文字が映された。

『#バレンタインに勇気が出せない私からの卒業』のタグはかなり投稿があり、今年こそは勇気を出す!と決意表明と共にたくさんの手書き文字が並んでいた。

「さくらは?」
「ん?」
「爽汰にあげるの?」
「うん、毎年恒例だから」
「そうじゃなくってさー、幼馴染としてじゃなくてよ」

 美月の目は「告白しろ」と訴えるけど、私はチョコを口に入れた。21時以降に食べない分、お昼に食べる分が増えている気もする。

「うーん」
「だって爽汰、東京の大学行くんでしょ」
「うん」
「ここで言っておかないと。幼馴染の立場でいられるのは3月までなんだからね」
「だよねー」

 小さく笑ってごまかすと、美月はスマホに目を戻して「私はお菓子作り失敗から卒業しないとなー」と呟く。
 美月は他校に彼氏がいるから、告白の勇気は出さなくてもいいらしい。

「さくら一緒に作ろうよ」
「私もうまくないけど」
「じゃあ、告白はともかく。さくらも『お菓子作り苦手な私、卒業!』にしよ。ね、2月13日空いてる?一緒に作ろうよ」
「うん」

 美月はネコエモンの手帳を取り出して、2月のページを開く。13日の欄に『お菓子作り苦手な私卒業!』とペンを走らせて、私も2月13日の欄に同じく記入した。

「あ、そうだ。一緒に撮ろうよ」

 美月は自分の手帳と私の手帳を重ねて並べる。13日の欄が並んで見えるように丁寧に重ねてから、美月はスマホを構えた。
 最近『#卒業日カレンダー』ではペア投稿も流行っている。
 友人と一緒に『遅刻魔から卒業!』と同じ目標設定をしたり、恋人が『喧嘩カップルから卒業』と共通目標を作ってみたり。二つのカレンダーを重ねて撮影する動画をいくつか見た。


 美月がアップした後、同じ動画をもらったので私も投稿してみる。
 よかった、これで2月の目標は一つ決まった。

 本当に卒業したい自分は隠して、表面上のささいなものだけ公開する。
 そんな私の『卒業日カレンダー』の意味なんて、きっとない。