その晩、夢を見た。
 きっとまた予知夢だと、夢の中にいながらわかった。

 瑞己くんが立っている。制服姿で、薄暗いところに、不安げな顔をして、じっと立ち尽くしている。
 場所はどこだろう?
 と、探ろうとしたところで、背景が変わった。まるで、でたらめな配色のステンドグラスだ。

 その背景が、突然割れた。
 砕け散る破片を浴びながら、瑞己くんが倒れる。
 倒れて、ガラス細工のように、陶器のように、瑞己くんの体がこなごなに割れてしまう。

 ――瑞己くん!

 わたしは叫んだつもりだった。
 でも、無音だ。自分の声も、ガラスや陶器の割れる音も、何ひとつ聞こえなかった。

   *

 まばたきをする。
 場面が切り替わっている。

   *

 登志也くんがいる。ぐったりした瑞己くんを抱きかかえるようにして、何か叫んでいる。また無音だ。

   *

 まばたきをする。
 また場面が切り替わる。

   *

 今度は真次郎くんもいて、登志也くんと一緒に、瑞己くんの顔をのぞき込んでいる。瑞己くんはピクリとも動かない。

   *

 まばたきをする。
 真っ暗になった。
 でも、わたしのまぶたの裏には、陶器の人形みたいに割れて壊れた瑞己くんの姿が焼きついている。

 ……これは、壊れものの予知夢?
 そうだと思う。夢を見ているわたし自身には、わかってしまった。

 じゃあ、瑞己くんは?
 瑞己くんはどうなるというの?
 割れて壊れてしまうって、一体どういうこと?

   *

 目覚めて飛び起きたとき、わたしは涙を流していた。夢を見て怖くて涙が出るなんて、子供みたいだ。
 ドクドクと不穏に走る鼓動のせいで、息が苦しかった。

「瑞己くん……」

 とっさにスマホを見た。
 午前五時を過ぎたところだ。誰からもメッセージは届いていない。

「まだ、無事なんだ……」

 少しだけ、ほっとした。
 でも、あれは予知夢だ。だんだんと明晰になってきている、壊れものの予知夢だ。

 傘の骨が折れていたときは、予知夢を見たことそれ自体は覚えていて、朝からずっとモヤモヤしていた。カップのときは、壊れる直前にその場面の予知夢をはっきり思い出した。
 今回は、夢の中でもわかった。こうして目覚めてからも、瑞己くんがガラス細工みたいに割れて壊れる姿をはっきりと思い出せる。登志也くんが必死になって瑞己くんに呼びかける姿も、瑞己くんを見下ろす真次郎くんの深刻そうな顔も。

「どうしたらいい……?」

 わたしはベッドの上で自分自身を抱きしめた。
 震えがなかなか止まらなかった。

***