「渡辺」

 パーティーがお開きになり、それぞれがグループになって解散していく。それぞれの新しい道へ。
 だらだらと牛の歩みで進む列の中、志遠は自らわたしに声をかけてきた。

「外で話そう」

 わたしはこくりと頷く。ちゃんと約束を覚えてくれている。
 3月のまだまだ寒い夜道を二人並んで歩きながら、志遠は何でもないことのようにこう言った。

「渡辺は今日、俺たちに嘘をついているよね?」
「え?」

 あのカメラの前での話のことだろうか、いやでもあれは正直な今の気持ちなんだよ、と反論しかけると、「いやいやそのことじゃなくて」と志遠は首を振る。穏やかな笑顔。

 その次に志遠の口から出てきた言葉に、心臓が止まるかと思った。

「ここにいる渡辺は、本当は僕と同い年じゃないよね?」
「な、何言ってんの」

 思わず足を止める。気づけばだらだらと駅に向かっていた同級生たちの姿ももう見えなくなっていた。とっくの昔に追い越されたのだ。

「ほら、嘘ついた。きみは根っからの正直者なんだから、嘘はすぐにばれるよ」

 そんな馬鹿な。
 このわたしが、十八歳のわたしじゃないこと。
 そんなことを、今日一日ほとんど接していないのに、どうして気づけるんだろう。

「僕よりもほんのちょっと大人に見えたんだ」
「本当?」

 嬉しいような、悲しいような。
 やはりわたしには嘘が向いていないのかもしれない。

 思わず天を仰ぐと、街の明かりにも負けずいくつかの星が瞬いていた。
 今見えている光は、確かうんと昔の光らしい。
 今のわたしとは逆だ。
 少し未来のわたしが、ここにいる。

 でも、わたしの嘘がすぐ見抜けるってことは――

「じゃあ、振ったときも……?」

 志遠は首を縦に振る。
 眉を下げて、笑う姿がもの哀しかった。

「は、恥ずかしい……」
「僕は僕が情けなかったんだよ。きみに嘘をつかせたこと、本音が言えない仲になっていたことが」
「そんなことないよ……! わたしはただ、志遠の足を引っ張りたくなかっただけ」
「知ってるよ。恋人……だったんだから」

 刹那の躊躇の末に過去形になったわたしたちの関係を指す言葉は、冷たい風の中に消えていった。
 足を止めると、少し寒い。

「歩きながら話そう」

 少しでも志遠と、思い出の残骸を味わいながら時を過ごしたい。

「そうだね」

 夜の街にはコロナ禍の末ということもあってか、活気があった。
 この頃から、ぐんと物価が上がったような記憶があったけれど、看板に表示されたメニューは現在のものよりもずっとお手軽で、わずかながらも時代の壁を感じる。
 人々は未来を憂いながらも、この一刹那だけは全てを忘れたがっているように見えた。
 それはわたしとは真逆のように見えた。
 わたしは過去を憂いながら、全ての瞬間を忘れないように心に刻み込んでいる最中だった。

 しばらく流れた沈黙だったが、志遠はそれを破った。

「渡辺は、大事なことを伝えるために僕に会いに来たんだね?」