最後のコンテンツというのは何だろう、と小動物のように身構えたけれど、なんてことはない。
10年後の自分へのメッセージを、みんなの前で披露し、その様子を動画に残そうという催しだった。それを10年後の同窓会(タイムリーパーのわたしでさえ知らない未来だ)で流そうというものらしい。
催しの性質もあってか、なかなか志遠と二人きりになるのは難しく、わたしは慌てて「あとで話したい」とだけ告げて、壁際のソファに戻った。
戻る最中、木戸さんが大人しげなピンク色のワンピースの女子に何やら耳打ちしているのが目に入った。
きっと志遠に告白したがっているのは彼女なのだろう。
彼女も彼女だ。志遠と付き合いたければ、堂々と勇気を出せば良いのだ。
人に恋愛のアシストをしてもらえるのなんて、十代までだぞ、と内心忠告する。
幹事の誰かがスマートフォンをセットし、どういう順番かは分からぬままに、動画は回り始めた。
「10年後の俺ー! 高校時代は苦い思い出も甘い思い出もあったけど、今は好きな場所で好きな人と生きていますか? それさえ出来ていれば、もう文句なしです!」
何やら恋愛で痛い思いでもしたのだろうかとすぐに周りに知れる宣言をする男子。
「28歳のサリナ〜、元気? 自分がプロデュースした子供服を、自分の子供に着せてあげてますか?」
楽観的で明るい未来を描く女子。
「中学から高校にかけて、あまり成長できた気がしません。今よりずっとずっと、誰かを思いやれる人であってほしいです。そして常に変化を恐れずチャレンジ精神を持って毎日を生きていてほしいです」
自分の内面に対する目標を掲げる男子。
青臭いな、とはどうしてか感じなかった。
それぞれ今だけは、未来への不安からも自分の中にあるまだ未熟で未完成である部分からも一旦目を逸らせ、思い思いの未来を心に描いて、それを言葉という形に結晶させている。
人の背中を押すのは、ただただ希望に溢れた強い言葉。
こうして皆、「#高校生」というタグから卒業していくのではないだろうか。
でもわたしは2年前、こういう儀式をひとつも済ませなかった。
だからこうして何度も何度も、同じ時間をループするのかもしれない。
「28歳の私へ」
次にカメラの前に立ったのは、ピンクのワンピースを着た女子。
控えめな見た目に、異様に緊張した立ち姿。遠目に見ても、肩がぶるぶると震えていた。
「今、好きな人と、一緒にいますか。……有光志遠君が、隣で歩いてくれていますか」
おお、とか、きゃっ、というどよめきが起こった。
想定外の大胆な行動に、わたしまでもが声をもらしたほどだった。
「有光君、」
彼女はカメラから志遠へと向き直り、志遠に直接語りかけ始めた。
「私と付き合ってください」
やるねー、だとか、付き合っちゃえー、などという掛け声がどこからともなく上がり始めた。
前々から彼女の恋を応援していた者と、この場の雰囲気に合わせて無責任に囃し立てている者と、それぞれ人数はどの程度のものだろう。
志遠の表情はここからだとはっきりは見えないが……。
「有光ー! 返事しろー!」
当然の結果、志遠が返事する流れになった。
幹事もその空気を楽しんでいるようですらあった。
あんなに控え目な1人の女の子が、ここまで場の空気をコントロールしうるのか。
わたしはふと、あることに気づいた。
これは、わたしが起こした出来事なのだ……。
告白の成功確率を上げるための作戦を彼女は急遽切り替えたということ。
それは、わたしがタイムリープし、ここに現れない限り、起こらなかったイベント。
2年前の卒業式では、きっと平凡な告白……例えば体育館の裏側に呼び出すだとか、そういう方法をとっていたに違いない。
でも、今・ここでは違っている。
わたしが出現した世界での彼女は、木戸さんを使ってわたしを志遠から遠ざけようとした。
しかしわたしにその意志がないと分かり、別の形で告白の成功率が上がる道を選びとったのだ。
控え目な一人の女の子が、最も目立つ大胆な行動へ出る。
たったそれだけのことかもしれないけれど、わたしは誰かの人生を少し変えてしまった。
10年後の自分へのメッセージを、みんなの前で披露し、その様子を動画に残そうという催しだった。それを10年後の同窓会(タイムリーパーのわたしでさえ知らない未来だ)で流そうというものらしい。
催しの性質もあってか、なかなか志遠と二人きりになるのは難しく、わたしは慌てて「あとで話したい」とだけ告げて、壁際のソファに戻った。
戻る最中、木戸さんが大人しげなピンク色のワンピースの女子に何やら耳打ちしているのが目に入った。
きっと志遠に告白したがっているのは彼女なのだろう。
彼女も彼女だ。志遠と付き合いたければ、堂々と勇気を出せば良いのだ。
人に恋愛のアシストをしてもらえるのなんて、十代までだぞ、と内心忠告する。
幹事の誰かがスマートフォンをセットし、どういう順番かは分からぬままに、動画は回り始めた。
「10年後の俺ー! 高校時代は苦い思い出も甘い思い出もあったけど、今は好きな場所で好きな人と生きていますか? それさえ出来ていれば、もう文句なしです!」
何やら恋愛で痛い思いでもしたのだろうかとすぐに周りに知れる宣言をする男子。
「28歳のサリナ〜、元気? 自分がプロデュースした子供服を、自分の子供に着せてあげてますか?」
楽観的で明るい未来を描く女子。
「中学から高校にかけて、あまり成長できた気がしません。今よりずっとずっと、誰かを思いやれる人であってほしいです。そして常に変化を恐れずチャレンジ精神を持って毎日を生きていてほしいです」
自分の内面に対する目標を掲げる男子。
青臭いな、とはどうしてか感じなかった。
それぞれ今だけは、未来への不安からも自分の中にあるまだ未熟で未完成である部分からも一旦目を逸らせ、思い思いの未来を心に描いて、それを言葉という形に結晶させている。
人の背中を押すのは、ただただ希望に溢れた強い言葉。
こうして皆、「#高校生」というタグから卒業していくのではないだろうか。
でもわたしは2年前、こういう儀式をひとつも済ませなかった。
だからこうして何度も何度も、同じ時間をループするのかもしれない。
「28歳の私へ」
次にカメラの前に立ったのは、ピンクのワンピースを着た女子。
控えめな見た目に、異様に緊張した立ち姿。遠目に見ても、肩がぶるぶると震えていた。
「今、好きな人と、一緒にいますか。……有光志遠君が、隣で歩いてくれていますか」
おお、とか、きゃっ、というどよめきが起こった。
想定外の大胆な行動に、わたしまでもが声をもらしたほどだった。
「有光君、」
彼女はカメラから志遠へと向き直り、志遠に直接語りかけ始めた。
「私と付き合ってください」
やるねー、だとか、付き合っちゃえー、などという掛け声がどこからともなく上がり始めた。
前々から彼女の恋を応援していた者と、この場の雰囲気に合わせて無責任に囃し立てている者と、それぞれ人数はどの程度のものだろう。
志遠の表情はここからだとはっきりは見えないが……。
「有光ー! 返事しろー!」
当然の結果、志遠が返事する流れになった。
幹事もその空気を楽しんでいるようですらあった。
あんなに控え目な1人の女の子が、ここまで場の空気をコントロールしうるのか。
わたしはふと、あることに気づいた。
これは、わたしが起こした出来事なのだ……。
告白の成功確率を上げるための作戦を彼女は急遽切り替えたということ。
それは、わたしがタイムリープし、ここに現れない限り、起こらなかったイベント。
2年前の卒業式では、きっと平凡な告白……例えば体育館の裏側に呼び出すだとか、そういう方法をとっていたに違いない。
でも、今・ここでは違っている。
わたしが出現した世界での彼女は、木戸さんを使ってわたしを志遠から遠ざけようとした。
しかしわたしにその意志がないと分かり、別の形で告白の成功率が上がる道を選びとったのだ。
控え目な一人の女の子が、最も目立つ大胆な行動へ出る。
たったそれだけのことかもしれないけれど、わたしは誰かの人生を少し変えてしまった。