びっくりするくらい真剣で、深刻な眼差しに、心がぞわっと冷える。
肩に置かれた手は重かった。思わずよろけそうになるほどに。
「な、何……」
「有光君に話しかけようとしてるでしょ。ちょっと今はやめてくれるかな」
そこで木戸さんはにこっと、あからさまな作り笑いを浮かべた。
「告白したがってる友達がいるんだよねー」
分かってるよね? と小声で付け足す。
そういうことか。
今日、ずっとずっと木戸さんがわたしのそばにいた理由。
そして嘘が大嫌いなわたしが、なんとなく察していた「嘘つき」特有の違和感。
木戸さんは、親切でひとりぼっちのわたしに接しているわけがじゃない。
彼女は、わたしを志遠に近づけないように、監視していただけなのだ。
友達の恋路に邪魔な石が現れないように。
「あたしの友達、J大学に進学するんだよね。有光君、入学辞退しそうらしくて。そうしてくれたらいいなって思ってるの」
木戸さんは肩から手をやっと離した。
わたしがここに存在することは、彼女たちにとってイレギュラー。
わたしさえいなければ、恋がうまくいくと信じているのか。
「渡辺さんが話しかけると、T大学へ行く確率が上がるでしょ? 元カノっていうのは特別なの。分かってくれる?」
木戸さんは作り笑顔を浮かべたまま、わたしに念押しする。
もうどこも触られていないのに、全身で胸を押されているかのような強い圧迫感。
だけど、わたしは頷けない。
誰かの恋のためにこの時へ戻ってきたんじゃない。
もちろん自分の恋のためでもない。
どこかのグループで拍手が沸き起こる。何が起きているのか、わからないまま、わたしは木戸さんに首を振る。
「できないよ」
「何で」
作り笑いがふっと消えて、木戸さんの目から光が消える。
意を決してわたしは宣言した。
「志遠の運命のためだよ」
人生でおそらくこんなに強い意志で誰かに何かを言ったことはなかった。
と、そこで、
「どうかしたの?」
懐かしい、ずっとずっと聞きたかった声が背後からした。
振り返れば、眼鏡とその奥の透き通った茶色い瞳。
「志遠……」
久しぶり、と言いかけて慌てて口を閉ざす。
「何かあったの?」
わたしと木戸さんの間に流れる尋常じゃない雰囲気を察したように、割って入る。
というか、察しているのだろう、志遠はそういう人だ。
誰よりも人の気持ちが分かり、誰よりも優しく、それゆえに自分が損してばかりいる人。
「いや、別に――」
木戸さんが観念したようにそう言いかけたときだった。
「さあ、皆さんご歓談中ではありますが、そろそろお時間が迫って参りましたので、最後のコンテンツへ参りたいと思いまーす!」
司会の細見君のマイクを通した声が会場中に響き渡った。
ちょうどレフェリーが試合を止めるような具合に。