俺は肇に引かれるまま後に着いていく。
 ぎゅっとしっかり握られた手は柔らかく、けれど冷たい。
 流されるままここまできてしまったが、俺は自分がどうしたいのか、自分でもわからなかった。

「あっちに射的ある!」
「ちょっと待ってよー」

 子どもたちが楽しそうに足元を駆けていく。
 なにも知らないあの頃に戻りたい。無邪気に男友達と遊べていたあの頃に。

 俺は、どうして普通になれなかったんだろうか。
 普通に、異性を愛せていれば、こんな思いをする必要もなかったのに、とずっと悩んできた。

 周りから白い目で見られるのも、もちろん嫌だし怖い。
 だけど、思いを告げて、肇に拒絶されるほうがもっと怖い。

 怖いなら、このまま黙っていればいいんだ。
 なのに、体中を荒々しく駆け巡るこの思いを全て吐き出してしまいたくなる。
 でも、それは同時に自分が普通じゃない(・・・・・・)ということを肇に告げるのと同じで……。その覚悟が、俺はまだできていない。

 もう本当に、いろんなことの板挟みになって身動きが取れなくて、ずっと誰かに首を絞められているかのように息苦しかった。

 やっぱり、逃げたい。
 でも、逃げてもなにも変わらなかった事実が今ここにある。

「――お、足立! ――と……朝倉じゃん! 久しぶりー!」

 俯いて歩いていた俺は、その声に弾かれるようにして顔をあげた。それと同時にハッとして手を引き抜こうとしたが、きつく握られたそれを解くことができなかった。妙な汗が滲む。

「朝倉こっち帰ってたんだ。つか、相変わらず仲良いなー」

 中学三年で同じクラスだった神谷が、俺たちの手元に視線を落として苦笑を浮かべた。

「え、なになに、手なんか繋いで、お前ら付き合ってんのかよ」

 グループの一人――俺の知らない顔のやつが、神谷の肩に手を置いて、俺と肇を交互に見てきた。その眼差しに、嫌悪や侮蔑が見て取れて、一瞬で頭に血が上りそうになった時、つないだ手が更にぎゅっと握りしめられた。痛いくらいに。

「付き合ってたら何だって言うんだよ。ゲイだ、同性愛者だ、気持ち悪いって笑うのか? 異性愛者は正常で同性愛者は異常なのか? それが例え友だちだとしてもか?」

 叫ぶようにそう言った肇を、俺は見上げた。驚いた。温厚な性格のこいつがこんな風に怒りを露わにしているのを、初めてみたかもしれない。言われた相手は、軽い気持ちで言ったのか、予想外の反応に「え、あ……いや……」と狼狽えている。

「俺からすれば、偏見振りかざしてくる方がよっぽど異常者だし気持ち悪い。まぁ、そんなやつはそもそも友だちでもなんでもないけどな!」
「わ、悪かった、俺が悪かったって……」
「まーまーまー! その辺で許してやれって足立。横山も悪気があったわけじゃないんだから」

 神谷が仲裁に入ったが、肇の怒りは収まらないようで、「悪気がなけりゃなんでも許されると思うなよ」と吐き捨てるように言って顔をそむけた。
 肇の怒っている姿を見たら、俺の怒りはきれいさっぱりどこかに消え去っていた。
 それどころか……。

「あ、じゃぁ、悪いけど俺たちこれで……」
「おう、またなー」

 肇の態度に苦笑いを浮かべる神谷にそう告げて、俺は踵を返す。今度は俺が肇を引っ張っていく番だった。