「わぁ! 先輩、本当に来てくれたんですね」

 二回目に病室を訪れたのは、翌日の午前中だった。
 スマートフォンを横持ちにして何かをしていた望花ちゃんは、僕に気づくと顔を上げた。中庭でだけではなく、彼女の病室も携帯を使えるようだ。
 小さな病室には彼女しかいない。個室だったからかもしれない。

 彼女はベッドを起こして、遊んでいた。
 横持ちで遊んでいる携帯の画面からのぞくゲームは、僕も昔武田に誘われて少しだけ遊んでいたことがあった有名なタイトルだった。

「ボス戦なので、ちょっとだけ、待っててもらえませんか……!?」

 病気のこと。四月の告白のこと。「石割さん」のこと。
 何か話そうとして、気づくと、頭に浮かぶのは、そんな切り出せないことばかりだった。

「ボールはもう完成したの?」

 思案の末に、最終的に口から飛び出したのは、そんな当たり障りのない質問だった。

 ハンガーにかけられた千羽鶴の束をちらりと見ると……心なしか昨日より減っていた。

 虹色の千羽鶴は、左右のバランスを失った不均衡な姿で、どこか投げやりに吊り下げられていた。

 ゲームでボスとやらを倒したのだろう。彼女の指の動きが落ち着いて、思ったよりすぐに答えが返ってきた。

「はい。無事にれいくんに渡すことが出来ましたよ。わたしの折り紙製サッカーボール、彼、とても喜んでくれてました」

 望花ちゃんはスマホを片脇に置くと、僕に笑いかけた。

「えへへ。わたしの折り紙、子供達からお年寄りの人達まで、皆にけっこう好評なんですよっ」

 彼女が気持ちを感じることの出来ない千羽鶴が、彼女自身の手を介して、代わりに誰かの喜びになっているという事実が、僕には複雑な気持ちだった。

 そんな僕のモヤモヤした心には気づかないのか、あるいは気づかないふりをしているのか、彼女は自らすすんで話題を変えた。

「昨日の話の続きからですね。秘密基地のこと、でしたよね」