◆
体育の授業が終わり、制服に着替えると、僕は誰よりも早く、更衣室を出た。
いつもよりは動いたからか、少し気分がいい。
「吉峰君」
身体を伸ばし、大きく深呼吸をしようとすると、後ろから百瀬の慌てた声が聞こえてきた。
「どうして先に行っちゃったの」
僕は百瀬がそう言うほうが、不思議でならないのだけど。
「なんで僕が待たないといけないんだよ」
「俺が吉峰君と、もっと話したいから」
理由になっていない気がする。
もし本気でそう思っているなら、なんて自分勝手なんだ。
「僕は話したいとは思わない」
相変わらず突き放すような声で言い、百瀬を置いて先に進むけど、それでも百瀬はついて来た。
隣に並ぶ百瀬は、少し拗ねているように見える。
「吉峰君もなかなかの毒舌だよね」
言われて、僕も遠慮なかったことに気付く。
自分のことを棚に上げて、百瀬のことを言いすぎたな。
「……正直者って言ってくれ」
百瀬の言葉のせいで、僕は強く出られなくなった。
百瀬はそれに気付いたようで、悪い笑みを浮かべている。
「物は言いよう、だね?」
……コイツ、嫌いだ。
そう思うと同時に、腑に落ちた。
僕は百瀬のこういう表情を知ってしまったから、さっきみたいな顔を見て、ニセモノだって思ってしまったんだ。
どうしてわざわざ偽っているのか知らないけど、百瀬がそんなだから、きっと僕は、百瀬と話せるんだと思う。
まあ、だとしても、これ以上距離を縮める気は一ミリもないけど。
「ごめん、言いすぎたかも」
僕がなにも反応しなかったから、百瀬は不安そうな目をしている。
僕に振り回されすぎじゃないか。
それがおかしくて、僕はつい、笑ってしまう。
すると、百瀬はじっと僕の顔を見てきた。
ここで笑われるのはいい気がしないか。
咳払いをして、笑ったことをなかったことにする。
「吉峰君って、笑えるんだね」
「どんな感想だよ」
嫌味でもなんでもなく、ただ純粋に抱いた感想を口にしただけらしい。
百瀬はまた、申しわけなさそうに戸惑っている。
「優雨」
そのとき、誰かが百瀬に手を伸ばし、肩を組んだ。
ああ、僕のキライな陽キャが増えてしまった。
「な、なに?」
タイミングが悪かったようで、百瀬は戸惑いの表情のまま応える。
当然、ソイツは不思議そうにした。
「優雨、もしかして陰キャくんにイジメられた?」
くだらない。
僕が最初に抱いた感情は、それだった。
だけど、百瀬は違った。
「違うし、吉峰凌空君だよ。そんな呼び方は、ダメだよ」
怒りの込められた声に、僕のほうが驚いた。
自分の思いをちゃんと、正直に伝えられるじゃないか。
それでも笑顔を偽るような関係には、疑問しかないけど。
「冗談だって。そんな怒んなよ」
しかし、ソイツには響かなかった。
体育の授業が終わり、制服に着替えると、僕は誰よりも早く、更衣室を出た。
いつもよりは動いたからか、少し気分がいい。
「吉峰君」
身体を伸ばし、大きく深呼吸をしようとすると、後ろから百瀬の慌てた声が聞こえてきた。
「どうして先に行っちゃったの」
僕は百瀬がそう言うほうが、不思議でならないのだけど。
「なんで僕が待たないといけないんだよ」
「俺が吉峰君と、もっと話したいから」
理由になっていない気がする。
もし本気でそう思っているなら、なんて自分勝手なんだ。
「僕は話したいとは思わない」
相変わらず突き放すような声で言い、百瀬を置いて先に進むけど、それでも百瀬はついて来た。
隣に並ぶ百瀬は、少し拗ねているように見える。
「吉峰君もなかなかの毒舌だよね」
言われて、僕も遠慮なかったことに気付く。
自分のことを棚に上げて、百瀬のことを言いすぎたな。
「……正直者って言ってくれ」
百瀬の言葉のせいで、僕は強く出られなくなった。
百瀬はそれに気付いたようで、悪い笑みを浮かべている。
「物は言いよう、だね?」
……コイツ、嫌いだ。
そう思うと同時に、腑に落ちた。
僕は百瀬のこういう表情を知ってしまったから、さっきみたいな顔を見て、ニセモノだって思ってしまったんだ。
どうしてわざわざ偽っているのか知らないけど、百瀬がそんなだから、きっと僕は、百瀬と話せるんだと思う。
まあ、だとしても、これ以上距離を縮める気は一ミリもないけど。
「ごめん、言いすぎたかも」
僕がなにも反応しなかったから、百瀬は不安そうな目をしている。
僕に振り回されすぎじゃないか。
それがおかしくて、僕はつい、笑ってしまう。
すると、百瀬はじっと僕の顔を見てきた。
ここで笑われるのはいい気がしないか。
咳払いをして、笑ったことをなかったことにする。
「吉峰君って、笑えるんだね」
「どんな感想だよ」
嫌味でもなんでもなく、ただ純粋に抱いた感想を口にしただけらしい。
百瀬はまた、申しわけなさそうに戸惑っている。
「優雨」
そのとき、誰かが百瀬に手を伸ばし、肩を組んだ。
ああ、僕のキライな陽キャが増えてしまった。
「な、なに?」
タイミングが悪かったようで、百瀬は戸惑いの表情のまま応える。
当然、ソイツは不思議そうにした。
「優雨、もしかして陰キャくんにイジメられた?」
くだらない。
僕が最初に抱いた感情は、それだった。
だけど、百瀬は違った。
「違うし、吉峰凌空君だよ。そんな呼び方は、ダメだよ」
怒りの込められた声に、僕のほうが驚いた。
自分の思いをちゃんと、正直に伝えられるじゃないか。
それでも笑顔を偽るような関係には、疑問しかないけど。
「冗談だって。そんな怒んなよ」
しかし、ソイツには響かなかった。