体育の授業が終わり、制服に着替えると、僕は誰よりも早く、更衣室を出た。

 いつもよりは動いたからか、少し気分がいい。

「吉峰君」

 身体を伸ばし、大きく深呼吸をしようとすると、後ろから百瀬の慌てた声が聞こえてきた。

「どうして先に行っちゃったの」

 僕は百瀬がそう言うほうが、不思議でならないのだけど。

「なんで僕が待たないといけないんだよ」
「俺が吉峰君と、もっと話したいから」

 理由になっていない気がする。

 もし本気でそう思っているなら、なんて自分勝手なんだ。

「僕は話したいとは思わない」

 相変わらず突き放すような声で言い、百瀬を置いて先に進むけど、それでも百瀬はついて来た。

 隣に並ぶ百瀬は、少し拗ねているように見える。

「吉峰君もなかなかの毒舌だよね」

 言われて、僕も遠慮なかったことに気付く。

 自分のことを棚に上げて、百瀬のことを言いすぎたな。

「……正直者って言ってくれ」

 百瀬の言葉のせいで、僕は強く出られなくなった。

 百瀬はそれに気付いたようで、悪い笑みを浮かべている。

「物は言いよう、だね?」

 ……コイツ、嫌いだ。

 そう思うと同時に、腑に落ちた。

 僕は百瀬のこういう表情を知ってしまったから、さっきみたいな顔を見て、ニセモノだって思ってしまったんだ。

 どうしてわざわざ偽っているのか知らないけど、百瀬がそんなだから、きっと僕は、百瀬と話せるんだと思う。

 まあ、だとしても、これ以上距離を縮める気は一ミリもないけど。

「ごめん、言いすぎたかも」

 僕がなにも反応しなかったから、百瀬は不安そうな目をしている。

 僕に振り回されすぎじゃないか。

 それがおかしくて、僕はつい、笑ってしまう。

 すると、百瀬はじっと僕の顔を見てきた。

 ここで笑われるのはいい気がしないか。

 咳払いをして、笑ったことをなかったことにする。

「吉峰君って、笑えるんだね」
「どんな感想だよ」

 嫌味でもなんでもなく、ただ純粋に抱いた感想を口にしただけらしい。

 百瀬はまた、申しわけなさそうに戸惑っている。

「優雨」

 そのとき、誰かが百瀬に手を伸ばし、肩を組んだ。

 ああ、僕のキライな陽キャが増えてしまった。

「な、なに?」

 タイミングが悪かったようで、百瀬は戸惑いの表情のまま応える。

 当然、ソイツは不思議そうにした。

「優雨、もしかして陰キャくんにイジメられた?」

 くだらない。

 僕が最初に抱いた感情は、それだった。

 だけど、百瀬は違った。

「違うし、吉峰凌空(りく)君だよ。そんな呼び方は、ダメだよ」

 怒りの込められた声に、僕のほうが驚いた。

 自分の思いをちゃんと、正直に伝えられるじゃないか。

 それでも笑顔を偽るような関係には、疑問しかないけど。

「冗談だって。そんな怒んなよ」

 しかし、ソイツには響かなかった。