「その、すごく眩しくて。わたしとは全然、違うから」

 はっとして口を押さえるも、すでに遅い。気分を害してしまったかと恐る恐る茜を見れば、彼女はなぜかきょとんとして不思議そうに絃を見つめていた。

「変なことを言うなあ。私の男勝りさを嫌厭(けんえん)しないのか?」

「え、そんな……。お鈴も格好いいって言ってましたし、とても憧れます」

「ふうん。そうか、ありがとう」

 可憐(かれん)な花が綻ぶように、茜はくすくすと笑った。
 男勝りだと言いつつ、いっさい無駄のない所作は指の先まで洗練されていてすべてが美しい。同じ女性である絃でさえも見惚れてしまうほどだ。
 返答もさっぱりしているし、知れば知るほど好感を抱くしかない相手だった。

「私のことは茜でいいよ、絃さん」

「っ……は、はい」

「それでさ。もしかして、私と士琉の関係になにか懸念があったりする?」

 ずばりと図星を指されて、絃はたじろいだ。
 思わず視線を泳がせてしまったことで、是と捉えたのだろう。茜は「ほお」と興味深そうに腕を組んで、口許をにやつかせた。

「私はてっきり一方的なものだと思っていたんだが、なるほど。そうでもないと」

「えっ?」

「いや、なんでもない。──なんでもない、が」

 茜は満足げに立ち上がると、絃の隣までやってきておもむろに膝をついた。
 かと思えば、長い指先に顎を掬い取られて、絃は上向かせられる。

(な、なに……っ?)

 狼狽する絃を間近で覗き込んできた茜は、妖艶(ようえん)に切れ長の双眸を細めて、にやりと口角を上げた。藤色の瞳が(あや)しく光りを帯びる。

「なあ、絃さん。そんなふうに君を不安にさせる男なんてやめて、うちに来ないか?」

「は、い?」

「君のその自信のなさは、己の価値を知らないからだろう。悲しいことだな、他人と比べて卑下するほど落ちぶれていないし、むしろ君にしかないものを多く持っているというのに。きっとその様子では、誰もそれを教えてくれなかったんだろうが」

 どうしてか、滔々(とうとう)と告げられる茜の言葉が頭に入ってこない。
 思考の深い部分がなにかに覆われるようで、ただただ絃を間近で射竦める藤色の妖美な瞳に惹きつけられる。

「知っているか? 女子(おなご)がもっとも美しく可憐に花を咲かせるのは、己の真価を受け入れたときなんだ」

「しん、か……」

「そう。そして、君が持つ本当の価値を私は知っている。周りの過保護な男たちは絃さんを護ることばかり考えて、あえて燻ぶらせたままにしているようだが……。なあ、どうだろう。私なら君の力を存分に引き出してやれるし、あわよくば──」

 そのとき、ふいに部屋の襖がぴしゃんと勢いよく開いた。叩きつけるようなその音に絃がはっと我に返った瞬間、背後から回った腕に強く引き寄せられる。

「離れろ、茜……!!」

 体勢を崩した絃をかき抱くように受け止めたのは、珍しく切羽詰まった様子の士琉だった。なぜここに、と疑問に思う一方、その押し殺したような怒号に驚く。
 痛いくらいに、後ろからぎゅうっと抱き締められた。
 絃はおおいに戸惑いながら、思わず自身の胸元に回った腕に手を添える。

「ありゃ。なんだ、来たのか。琉坊」

「その呼び方はやめろと何度言えば──いや、そんなことはいい。よりにもよって絃を誑(たぶら)かすなど、ふざけた真似を……!」

「べつに、ふざけてはいないけどな」

「ならばわけを話せ。くだらない理由で術中に嵌めようとしていたのなら、いくら茜が相手でも許すわけにはいかない」