自宅マンションから高校までは、徒歩十分の短い距離にある。
小学生の通学路にもなっている歩道は、左右に大きな桜の木が植えられていた。
今の季節は、すっかり色を変えた鮮やかな新緑が風を受け涼しげに揺らいでいる。
「ちょっとー! 遊ばないでよ!」
ふいに子どもの声がした。
視線を向けると、通学途中の小学生の姿が目に入る。
道を歩く少女の前には、傘を剣のように持って戦い合う男の子ふたりがいた。
ちらちらと視界の端にある傘に、私は天気予報の結果を思い出してさらに憂鬱になった。
十分後、学校に到着する。
私は校門の前で仁王立ちを決め込む体育教師の横を通り過ぎ、黙々と教室に向かった。
誰とも言葉は交わすことはなく、窓際にある自分の席に座るといつものように鞄からイヤホンを取った。
スマホに繋いで音楽アプリを開き、今日のおすすめから適当に選んで曲を流す。
そろそろ朝のホームルームがはじまる。担任の先生が来るまでは、みんなそれぞれ友達同士で話に花を咲かせていた。
話し声で満たされるにぎやかな教室。
誰とも話さず一人を貫いているのは、今日も私だけ。
「おーい、席につけー」
眠たげなあくびを伴いながら、クラス担任の友林先生が教室に入って来た。
グレーのカジュアルスーツにキャラクター物のスリッパ。それが趣味なのかどうかは分からないけど、一度見てしまったら忘れられない不気味なご当地ゆるキャラスリッパは、ほとんどの生徒に不評らしい。
「一つ連絡事項がある。今からプリントも配るから、よーく見て確認しておけよ」
スマホとイヤホンを鞄のポケットに突っ込んでいると、前の席からプリント用紙が回ってきた。
受け取って後ろの席に回したあと、私は印刷された文字をじっと確認する。
「……っ」
内容の一番上には、重要性を生徒に知らしめるためか、太文字で『西棟の多目的室への出入りを禁ずる』と書かれてあった。