薄水色のシャツと、紺色のネクタイ。細いチェック柄のスカート。そして真新しいブレザーに袖を通す。

 肩下まで伸びる髪にヘアオイルをつけ、軽くアイロンで整えて、学校へ行く支度は終わり。


「おはよう、雫(しずく)。目玉焼き焼けてるから、早く食べちゃいなさい」
「おはよう、お母さん。わかった」


 リビングに入った途端、キッチンから母の声が飛んでくる。
 私は食卓テーブルに座って、中央に置かれた五枚切りの食パンの袋に手を伸ばした。


「姉貴。今日、雨降るかもだって」


 リビングの左奥は、長ソファが二つと、壁にテレビが取りつけられている。
 長ソファのひとつに座って朝の情報番組を観ていた弟の晴太はるたが、そう私に教えてくれた。


「うん、そうみたい。ほんとに、困っちゃうよね」


 食パンに目玉焼きを乗せ、その上からブラックペッパーをまぶす。
 いつもと変わらない工程の合間に、私は苦笑を浮かべた。


「雫、大丈夫なの? お母さん、今日は早めに迎え行こうか?」
「いつもと同じでいいよ。おばあちゃんの病院に行く時間で大丈夫だから」


 今年の二月。地方の片田舎で暮らしていた祖母が、都内の病院に入院することになった。

 
 私はほぼ毎日、祖母の病室に顔を出している。

 家事の合間に顔を出す母は、基本的に数日に一度の頻度で病院に訪れていて、今日がその日だった。