どうやら祖母は、入院生活の間に世間話をする友達ができたらしい。

 つい最近になって知り合ったようで、折り鶴は勝男さんを見舞ってくれた生徒からの贈り物なのだと祖母は言った。

 それをひとつ、自分に分けてくれたのだと。


「ふふふ、可愛いでしょう。この鶴を折った子は、根が真面目で几帳面なのかねぇ」
「おばあちゃん、わかるの?」
「ばあちゃんが子どもの頃はね、折り紙で性格が表れる、なんて言われていたんだよ」

 私はピンと先の尖った折り鶴を眺めながら、それも一理あるかもしれないと思う。

「……私も鶴、折ろうかな」


 祖母に花などのお土産は何度か持ってきてはいたけれど、折り鶴を渡したことはない。
 千羽鶴は難しそうだが、鶴を見て懐かしげに微笑む祖母を見ていたら、私も作って贈りたくなってしまった。


「しいちゃんもくれるのかい?」


 祖母は目を丸くする。けれど、嬉しそう。


「うん、作る。売店にあるかな。少し見てくるね」


 鞄から財布だけを取ってパイプ椅子から立ち上がる。
 私は一階にある売店へ行くため、エレベーターへと向かった。



 華やかな和柄が集まった千代紙を購入し、祖母の病室がある四階でエレベーターを降りる。

 誰でも利用可能な休憩所を横切っていたとき、女の子の泣き声が聞こえてきた。


「やだ! つるがいいの! つる!」
「でもお母さん、鶴は折れないのよ。ハートで我慢して?」
「いやなの! あっちゃん、つるがいいの!」


 休憩所には、五歳ぐらいの女の子と、腕に赤子を抱えながら女の子の相手をする母親の姿があった。
 テーブルには、私が買った千代紙とまるっきり同じものが散乱している。


「あっ、そろそろミルクの時間だわ。お母さんちょっと行ってくるから、あっちゃんはここで大人しく待っててくれる?」
「やーだー! あっちゃんのつる!」
「わがまま言わないの。すぐに戻ってくるからね」


 ぐずる女の子を一人残し、母親は授乳室へと小走りで向かった。