***
「しいちゃん、しいちゃん」
「……っ、なあに、おばあちゃん?」
「大丈夫かい? さっきからずっと、心がどこかに迷子だったよ」
「ごめんね。ちょっと考えごとしてたの」
放課後、私はすぐに祖母のもとへ訪れていた。
枕を背もたれに上体を起こした祖母は、編み物の手を止めて私をじっと見てくる。
「昨日倒れたばっかりなんだから、むりしてばあちゃんのとこ来てくれなくてもいいんだよ?」
「むりなんかしてないよ。私もおばあちゃんに会いたいし、体も心配ないんだから」
そう言ったものの、祖母は納得がいっていないようだった。
「なにか、学校で嫌なことでもあったのかい? 入ってきたときから元気がないみたいだったよ」
「……ううん、なにも。ただ、クラスの子と話したことを思い出していただけなの」
「ああ、そうだったの。そうかいそうかい……お友達ねぇ。しいちゃん、仲良くやれているんだねぇ」
嬉しそうに顔をほころばせる祖母。本当のことは言い難く、私は曖昧に笑って見せた。
クラスメイトとの会話を思い出して考え事をしていたのは本当である。
ミヤケンが教室からいなくなったあのあと、クラスの女子たちが私に声をかけてきた。
『ごめんね、佐山さん。ミヤケンとの話、違ったんだね』
『ミヤケンって女好きだし、もしかしてって少し思っちゃって』
『体調が悪かったのに、騒いじゃってごめんね』
まさか謝られるとは予想していなかったので、口ごもったのを覚えている。
クラスの人と話すのにも慣れていなかった私は、愛想もなく「いえ、気にしてませんから」と言ってしまって。
あんなに緊張したのは、名前だけを告げた転校初日の自己紹介以来だった。
でも、教室にミヤケンが現れた効果なのか、放課後にはもう他者の視線を一斉に浴びることもなくなっていた。
さすがに……察してしまう。
きっとミヤケンは、わざわざ誤解を晴らすために、教室に現れてあんな芝居をしてくれたんだって。
だからこそ、よくわからない人だと思った。
「……あれ、おばあちゃん、これは?」
足元付近に設置されているベッドテーブルの上に、折り鶴が置かれていることに気がつく。
藤色の花柄模様の折り鶴は、どの角も几帳面に合わさって折られ、まるで見本のような出来栄え。
「あぁ、これはねぇ。同じ病院にいる勝男さんから頂いたんだよ」
「かつおさん……?」
「愉快な人でねぇ、よくばあちゃんの話し相手になってくれているんだよ」