「宮くんがそう言ってくれるなら、ありがたいです」
「うん、それでさ。俺から佐山ちゃんに聞きたいことあるんだけど」
「……なんですか?」
「昨日のあれって、なに?」
嫌な予感がすると薄々思っていた。先ほども彼は半分くらい言いかけていたし。
できれば避けたかった話題だけれど、こんなに堂々と問われたらそれもできない。
「……貧血です」
答えは用意してあった。
この学校でPTSDのことを、教師以外に言う気がなかった私は、昨日のことも全部貧血で通すつもりだったのだ。
「ふーん。貧血、ね」
「私の場合はかなり重度のものなんです。ああやって倒れることはほとんどなかったんですけど、昨日は限界がしてしまって」
本当のことを言えば、奇怪な目で見られるのは分かりきっている。
だから貧血で押し通すと決めていた。
「いや、つーか昨日のあれ、PTSDなんだって?」
あっけらかんとした顔でミヤケンが放った言葉に、私は耳を疑った。
言い当てられた焦りで鼓動が高鳴った。
こちらを真っすぐと見つめてくるミヤケン。冗談で言っているのとはわけが違う。
漠然とした発言ではなく、あきらかにそうだと言い切っている口ぶりだったから。
「え、急に……なんですか?」
「いや、実はさ。俺、昨日は夜の七時ぐらいまで学校いたんだよね。そしたら病院から帰ってきた友っちと岡ちゃん先生が廊下で話し込んでるとこ見ちゃって」
「それで……」
「なーに話しんでろーって近寄ったら、佐山ちゃんがPTSDで? 雨の日にはパニック症状になりやすいって聞こえてきて」
「……」
「だから知ってんだけど、あれ。佐山ちゃん?」
唇を引き結んだ私は、地面に視線を落とした。
頭部に当たる日差しが暑い。気温が上がり、体温も熱くなっていく。
どうにか弁解できないかと考えた。けれど、これはもう、むりそう。
きっと、私が病院に運ばれて、付き添っていた友林先生が学校に戻ってきて、岡本先生と私の話になったのだろう。
夜の七時ということは、本来ならば生徒は一斉下校で帰っているはず。廊下で話していたとしても、生徒に聞かれることはまずない。
ミヤケンが残っていた理由はわからないけれど、彼が話を聞くに至った流れはおおいに予想がついてしまった。
「お願い……誰にも、言わないでください」
ごまかすためのすべを無くした私には、そうお願いすることしかできない。
お礼と謝罪、借りたカーディガンを返して終わりだと思っていたのに、こんなことになるなんて。
空を照らす太陽の輝きとは反対に、私の胸の内には徐々に暗い曇天が立ちこめる。
本当なら誰にも知られたくない。知って欲しくなかったこと。
けれど、やっぱりそれは難しいみたい。
「おねがい、します」
――中途半端な私は、まだ学校に戻るべきじゃなかったのかな。
「――」
ふと、息を呑む音がして、
「ね、佐山ちゃん。君が隠したがってることをさ……俺から言いふらすとか、絶対にしないから」