点滴が終わる頃、祖母の病室から母が戻ってきた。
起き上がった私の姿を見ると、安心したように笑い、目尻の皺を濃くさせた。
「もう、心配したのよ」と言った母に、私は小さく「ごめんなさい、ありがとう」と呟いた。
後日カウンセリングを受けることになった私は、検診の予約を終えて病院を後にする。
少しだけでも祖母の病室に顔を出せれば良かったのだけれど、時間が遅いということで断念した。
明日は絶対に、学校が終わったらすぐに会いに行こう。
外に出ると雨はすっかり止んでいて、雲ひとつない空には星がぽつぽつと浮かんでいた。
「そういえば……雫の友達、名前はなんていうの?」
自転車で帰る晴太と駐輪場で別れたあと、車に乗り込んだ私は母の問いに首をかしげた。
「友達って、誰のこと?」
「ほら、保健室に一緒にいたんでしょ? 雫が倒れたとき、そばにいてくれたって友林先生が言っていたわよ」
「私が倒れたとき……」
頭に複数の疑問符が浮かんできそうになる。
母がいう『友達』に一切の心当たりがないからだ。
そもそも今の私には、親しい友達と呼べる相手がいない。
学校での生活や友人関係については曖昧に濁しているので、母にとってはあずかり知らないことだけど。
「友林先生に名前を聞いておくんだったわ。雫ったら、意識失ったままその男の子のシャツを掴んで離さなくてね。車まで運んでくれたのも、その子なのよ」
「男の子?」
「お母さんも慌てていたからちゃんと見ていなかったけど、綺麗な顔の子だったと思うわ。本当に覚えていない? ああ、それとこれも雫のために被せてくれたものじゃないかしら」
運転席に座る母は、背もたれを後ろに倒すと後部座席からあるものを取りだす。
手渡されたのは、アイボリーのカーディガンだった。