最悪のタイミングだった。
これだからいつ誰が来るか予想のつかない保健室は油断ならない。
どうして今入ってくるの、と思いそうになったけど、咄嗟に打ち消した。
ううん、違う。私の都合で入ってきた生徒に胸中で八つ当たりするのは間違っている。
「そうそう。岡ちゃん先生、職員室にいるんだよね。だから一時間ぐらいは戻ってこない」
「ええ〜、ほかに誰か入ってきたらどうするのよ?」
「ベッドから男と女の声が聞こえてくれば、察してくれるでしょ」
「あははっ、謙斗サイテー」
「うそうそ。具合悪い子が来たら、俺が手取り足取り看病を……」
不愉快な会話だった。
でも、ひとりの声は妙に聞き取りやすく感じた。
だからこそ余計に、話の内容が丸わかりで引いてしまう。
入ってきた生徒は、おそらく男女の二人組。どんな目的で保健室に訪れたのか知りたくもないけど、近くに感じる人の気配に私は激しく動揺した。
「……っ」
体に力を込めて起き上がる。目の前の視界が揺れて気持ちが悪い。
その時、ブレザーのポケットに入れていたスマホが「ブーッブーッ」と振動をはじめる。――電話だ。
「あれ、先客いた感じ?」
音に気づかれ、男の声が迫ってくる。私は慌ててスマホをポケットの上から握りこんだけれど、もういろいろと手遅れだった。
きっと着信は母からだと思う。校門まで迎えに来てくれたのだろう。
そして、いつまでも鳴り止まない振動音からは、母の焦りが感じ取れた。
雨が降ったため、私を心配してくれているんだ。
私は床に足をつき、ふらふらと歩き出す。
同時に締め切っていた間仕切りカーテンが、誰かの手によって開け放たれた。