白鬼の封印師

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異能を開花させた日のことを覚えている。
得体の知れない黒い正体。
手に触れた瞬間、それは音を立てて縮まれば自分の体に吸い込まれていく感覚を覚えた。何が起こったのか分からず固まる。代わりに声を出したのは両親だった。

「あのレベルの邪気を封印したのか⁈天才だ…この子は天才だ!」
「凄いわ、一華!!さすがは私達の娘ね!」

私を抱き上げる父と喜ぶ母。
後に聞けば、あれが邪気というものらしい。
人間の持つ負の感情。
そこから生まれた邪気を浄化できるのは、異能という特別な力を宿す術師だけ。
そんな家に生まれた私は特別な人間らしい。
異能を使い、邪気を封印して浄化する。
それが久野家に与えられた宿命。
一華の持って生まれた運命だった。

ーーバタン!

「ッ、、」

今日も今日とて邪気を封印する。
暗い。
何も無いこの部屋に閉じ込められて数時間。
最初は怖かったこの行為も慣れてきた。
時刻を知らせる時計も外の光も。
ここでは一切届かない。
冷たい部屋の中で襲い掛かる邪気を相手に次々と封印していった。

「ダメ…こんなんじゃ、、。もっと早く体制を整えないと。ああダメ、動かない。いいから早く立ちなさいよ」

床に倒れ込む自分の体はとうに限界を迎えていた。
それでもやらなければならない。
このムカつくほどに濃い、強い悪臭を放つ邪気達を前に無理やり体を叩き起こせば、ありったけの力を込めて手をかざした。

異能を持たぬ者に価値などない。

ずっと言われ続けてきた言葉。
三大術家に生まれた人間は特別でなければならない。
異能を持たずしてこの世界で生きる価値などない。
特別な人間は特別枠から外れることはあってはならない。
私は天才なのよ。
生まれ持つ異能も。
美しい容姿も。
何をとっても久野家の令嬢に相応しい。
私は常に完璧だった。
どんなに訓練が過酷で逃げ出したくても。
どんなに体がボロボロになっても関係ない。
今日の私が完璧である限り、認められる勝者の域と込み上げる優越感に誇りを感じる。
そう、アンタが現れるまでは。

「時雨です」

手をついて頭を下げるその子を遠目越しに眺めた。
聞けばお父様と前妻との間にできた子で義理の姉にあたるらしい…が、異能を持たない。
一瞬でその子が嫌いになった。
術家の人間が異能を持たない。
つまりこの子はこの世界において無価値。
容姿も平凡。
才能も器量もない。
完璧な自分と並ぶにはあまりに不釣り合いなその子が家族?
姉だなんて…無能なアンタが恥ずかしくてたまらなかった。
絶対に姉だなんて認めない。
無能なくせに。
今更、私の枠に入り込もうとするなんて許すとでも思っているの?
アンタは完璧になれなかった。
ならばその存在(無能)を必死に認めて貰おうだなんてバカな真似はしないで。
そんなのこの私が絶対に許さない。
無能なアンタが私の視界に…あの方の視界に入ることは絶対に許さない。
あの方は私が見つけた私だけのもの。
一目で心を奪われた私は強く確信した。
あの方は私の運命なのだと。
私と結ばれる為に生まれてきてくれたんだって。
だって私は完璧なんだから。
完璧な彼と結ばれて当然なことでしょ?
なのにどうして…

「どうしてアンタなのよ!」

無能なくせに。
何もできない役立たずのくせに。
ああ憎い憎い。
憎くてたまらない。
無能なアイツが…久野時雨が。

"そんなにあの男が欲しいか"

見上げれば知らない男が一人、一華を見下ろしている。

「欲しいのだろう?ならば手に入れればいい。欲しい物を手に入れることの何が悪い」
「貴方…誰?」
「私は八雲浩司。是非とも君に協力して貰いたいことがあるんだ」

光のない闇を含んだ漆黒の目。
その瞳を持つ人間を一華はよく知っていた。

「君は鬼頭家の花嫁になりたいのだろ?純血の血、つまりは鬼頭白夜の花嫁に」
「鬼頭白夜…なんて素敵な名前。そう、あの方は白夜様というのね。貴方は私を花嫁にできる?」
「協力しよう。だが一つ、ここは交換条件といこうではないか」
「交換条件?」

すると八雲は笑って頷いた。

「久野時雨を取り戻したい。だが私だけでは力不足だ。そこで妹である君の力を借りたいのさ」
「時雨を?」

なぜ八雲家があの子を必要とするの?
術家同士は仲が悪いんじゃなかったの?
それにお父様も他の術家とは話すなって、、、
いや、そんなことはどうだっていいわ。
彼さえ手に入れるなら。

「…本当に白夜様が手に入るのね?」
「ああ、約束しよう」

甘い誘惑と差し出された手。
これが何を示すかなんて言われなくても分かってる。
とても危険な道を一華は走ろうとしている。
それでも頭にあるのは鬼頭白夜という男だけ。
彼の存在は一華を刺激してしまえば警告音さえかき消してしまう。

私は完璧なの。

時雨が彼のものになるなんて絶対に許さない。

白夜様を手に入れる。
その為ならなんだってしてやる。

「いいわ。その条件のってあげる」

交わされた握手。
始まる愚行。
必ず手に入れてやる。
アンタには負けない。
絶対に渡さないんだから。
あの方は私のもの。
ふふ、待っててね。
私だけの王子様♡