久野家で過ごした七年間、私が遊びに出た日は一度もなかった。高校へ通うことはできても、あくまでそれは必要事項の一環でしかない。
父が伝えたいのは、学業という名の必要ごとが無ければ久野家の敷地内から無能者は出るなということ。
「こうして本格的に外に出たのは初めてだろ?」
「はい、母上がいた時もあまり外には行かなかったので」
母は体が弱く外にはあまり出られなかった。
だから私も必然的に学校が終われば家に帰っていた。
母に何かあっては大変だし。
これといって特別親しい友達もいなかったから。
「お前が元気になったら色んなとこ連れてってやるよ。見せてやりてぇ場所もたくさんあるし。社会勉強にもなるだろう」
昼間の休日ともあってか、駅には多くの人達で行き交っていた。子供連れから若いカップルまで誠に多くの民衆が確認できる。
少し慣れない空気には頭がクラクラしてしまう。
「先にあそこのカフェで休憩しよう」
白夜様はそんな様子を感じ取ったのか、地元では人気だというカフェを指差した。
「ありがとうございます」
「別にこれぐらい。で、体調の方は大丈夫か?」
店に入れば人が少ない奥側の席に向かい合わせで座る。
注文していた飲み物を飲む。
寒かったので抹茶ラテを注文してみたがとても美味しい。因みに白夜様はドリップコーヒーにミルクを加えている。
「ここへ来てからは体も少し楽になった気がします。でもこの子が」
白蛇さんはさっきから微動だにせず腕へと巻き付いたまま。不安になってツンツンと指でつついてみても応答がない。これは流石に心配だ。
「珍しいな、神獣がそこまで弱ってるのは俺も見たことがねぇ」
「私の管理不足でしょうか?」
眷属として私と契約してくれたのに。
よく考えれば自分はこの子のことをよく理解してあげられてない。そのせいでこの子を弱らせてしまっているのなら非常に申し訳ない。
「いやそれはない。基本、神獣は契約する者を自分の相性で決める。契約した者同士にとって最も重要なのは安定だ。どっちかが強すぎても弱すぎても片方には負荷をかけちまう。だからそこにプラマイゼロの関係を持てない者には契約なんて結ばない」
相性で決めるというのなら。
強い神獣は強い力を持つ者でないと互いに釣り合いがとれないということか。
「俺が考えた要因は二つだ。一つはお前と契約したことで、力に偏りが生じ安定を測れない。結果、負荷を受けている。もう一つは安定化できてはいるが、外部から何らかの影響をもろに受けている」
「外部からの影響?」
「まあ例外パターンだけどな。神の使い魔なんだ。地上に降りれば契約者を見つけて加護するまでがコイツらの役目。もしかすれば、ソイツも過去に誰かと契約を結んでいて、今もその解除が上手く出来ていないケースが考えられるな」
初めて見つけた時、この子は確かに傷だらけだった。
一度は白夜様の元に現れ、その後は私の元に現れてそのまま契約を結んだ。
怪我して弱っていたのはどこからか逃げてきたとか?
「異能が無い私と契約をしまっては安定するどころか、力を一方に帯電させてしまうでしょう」
体調が優れないのは、やはり力の調和が上手くとれないという可能性が高い。
でもそうまでして私と契約を結ぶなんて。
この子の意図が分からない。
「まあでも、この俺を差し置いてお前と契約したんだ。ソイツにはソイツなりの考えがあったのかもな。でもお前の体に限界がきた暁には早急に次の手を打たねぇとな」
白夜様は更にミルクを加えてコーヒーを飲む。
現世に来て思ったが、そもそも何故私は戻ってこれたのか。
「白夜様、ずっと気になっていたのですが。どうして私達は現世に来れたのですか?」
過去の契約によって両世界には強力な結界が施されたのだ。
どんなに強い異能持ちの花嫁や強い妖力持ちの妖とはいえ、絶対に渡ることはできない。
でも私達は難なくそれをクリアしまった。
一体何がどうなっているのだ。
「お前はまだ理解していないみてぇだな。俺の存在がこの世界にとって如何に末恐ろしいかを」
「それは…」
千年に一度、鬼神様の生まれ変わり。
体内には純血の血を宿し、千里眼を継承した白鬼の妖。
鬼神様が白夜様と言うのなら、隠世を初めに作ったのは白夜様という解釈でいいのだろうか。
だとしたら両世界の契約を結ぶ前に隠世を作ったということだから…。
「ひょっとして白夜様は、隠世の決定権とかも手の平で転せたりします?」
「な~んか失礼な言い方だが惜しいな。ぶっちゃけ隠世を作ったのが俺だと仮定するのならそれは可能だ。でも俺、面倒ごとって嫌いなんだよね~。今の隠世の主導権って実質のとこ妖王だし」
「では…」
「契約を結んだ相手はあくまで王同士。今だって妖王達の管理下のうち。つまり簡単に言っちまえば、結界を作ったのは王達なんだからその力を超える者には無効っつー訳」
「では、やはり白夜様は!」
鬼神様は妖を超える強い力の持ち主。
妖の王とて神の持つ力には敵わない。
莫大な妖力を使って結界を施した王に対し、白夜様はそれを潜り抜けた。
ということはやはり白夜様は。
「本当に白夜様は鬼神様なのですね」
「まあ、結果的に言えばそういうことなんじゃね?」
父が伝えたいのは、学業という名の必要ごとが無ければ久野家の敷地内から無能者は出るなということ。
「こうして本格的に外に出たのは初めてだろ?」
「はい、母上がいた時もあまり外には行かなかったので」
母は体が弱く外にはあまり出られなかった。
だから私も必然的に学校が終われば家に帰っていた。
母に何かあっては大変だし。
これといって特別親しい友達もいなかったから。
「お前が元気になったら色んなとこ連れてってやるよ。見せてやりてぇ場所もたくさんあるし。社会勉強にもなるだろう」
昼間の休日ともあってか、駅には多くの人達で行き交っていた。子供連れから若いカップルまで誠に多くの民衆が確認できる。
少し慣れない空気には頭がクラクラしてしまう。
「先にあそこのカフェで休憩しよう」
白夜様はそんな様子を感じ取ったのか、地元では人気だというカフェを指差した。
「ありがとうございます」
「別にこれぐらい。で、体調の方は大丈夫か?」
店に入れば人が少ない奥側の席に向かい合わせで座る。
注文していた飲み物を飲む。
寒かったので抹茶ラテを注文してみたがとても美味しい。因みに白夜様はドリップコーヒーにミルクを加えている。
「ここへ来てからは体も少し楽になった気がします。でもこの子が」
白蛇さんはさっきから微動だにせず腕へと巻き付いたまま。不安になってツンツンと指でつついてみても応答がない。これは流石に心配だ。
「珍しいな、神獣がそこまで弱ってるのは俺も見たことがねぇ」
「私の管理不足でしょうか?」
眷属として私と契約してくれたのに。
よく考えれば自分はこの子のことをよく理解してあげられてない。そのせいでこの子を弱らせてしまっているのなら非常に申し訳ない。
「いやそれはない。基本、神獣は契約する者を自分の相性で決める。契約した者同士にとって最も重要なのは安定だ。どっちかが強すぎても弱すぎても片方には負荷をかけちまう。だからそこにプラマイゼロの関係を持てない者には契約なんて結ばない」
相性で決めるというのなら。
強い神獣は強い力を持つ者でないと互いに釣り合いがとれないということか。
「俺が考えた要因は二つだ。一つはお前と契約したことで、力に偏りが生じ安定を測れない。結果、負荷を受けている。もう一つは安定化できてはいるが、外部から何らかの影響をもろに受けている」
「外部からの影響?」
「まあ例外パターンだけどな。神の使い魔なんだ。地上に降りれば契約者を見つけて加護するまでがコイツらの役目。もしかすれば、ソイツも過去に誰かと契約を結んでいて、今もその解除が上手く出来ていないケースが考えられるな」
初めて見つけた時、この子は確かに傷だらけだった。
一度は白夜様の元に現れ、その後は私の元に現れてそのまま契約を結んだ。
怪我して弱っていたのはどこからか逃げてきたとか?
「異能が無い私と契約をしまっては安定するどころか、力を一方に帯電させてしまうでしょう」
体調が優れないのは、やはり力の調和が上手くとれないという可能性が高い。
でもそうまでして私と契約を結ぶなんて。
この子の意図が分からない。
「まあでも、この俺を差し置いてお前と契約したんだ。ソイツにはソイツなりの考えがあったのかもな。でもお前の体に限界がきた暁には早急に次の手を打たねぇとな」
白夜様は更にミルクを加えてコーヒーを飲む。
現世に来て思ったが、そもそも何故私は戻ってこれたのか。
「白夜様、ずっと気になっていたのですが。どうして私達は現世に来れたのですか?」
過去の契約によって両世界には強力な結界が施されたのだ。
どんなに強い異能持ちの花嫁や強い妖力持ちの妖とはいえ、絶対に渡ることはできない。
でも私達は難なくそれをクリアしまった。
一体何がどうなっているのだ。
「お前はまだ理解していないみてぇだな。俺の存在がこの世界にとって如何に末恐ろしいかを」
「それは…」
千年に一度、鬼神様の生まれ変わり。
体内には純血の血を宿し、千里眼を継承した白鬼の妖。
鬼神様が白夜様と言うのなら、隠世を初めに作ったのは白夜様という解釈でいいのだろうか。
だとしたら両世界の契約を結ぶ前に隠世を作ったということだから…。
「ひょっとして白夜様は、隠世の決定権とかも手の平で転せたりします?」
「な~んか失礼な言い方だが惜しいな。ぶっちゃけ隠世を作ったのが俺だと仮定するのならそれは可能だ。でも俺、面倒ごとって嫌いなんだよね~。今の隠世の主導権って実質のとこ妖王だし」
「では…」
「契約を結んだ相手はあくまで王同士。今だって妖王達の管理下のうち。つまり簡単に言っちまえば、結界を作ったのは王達なんだからその力を超える者には無効っつー訳」
「では、やはり白夜様は!」
鬼神様は妖を超える強い力の持ち主。
妖の王とて神の持つ力には敵わない。
莫大な妖力を使って結界を施した王に対し、白夜様はそれを潜り抜けた。
ということはやはり白夜様は。
「本当に白夜様は鬼神様なのですね」
「まあ、結果的に言えばそういうことなんじゃね?」