幻惑の妖術。
それは妖狐が得意とする妖術の一つ。
対象の相手を視界から惑わし錯乱させることで生じる一瞬の隙をつき攻撃する。術の空間内に留めた相手を遠距離まで操作することも可能であり、これら全てを使いこなせる者はほんの一握り。
「ん~?一体何のことだい?そんな名前の子、僕の知るレディー達の中にはいないけど」
「誤魔化すだけ無駄だ。お翠を惑わせ花嫁を襲った犯人の残影は大方把握できている。幻惑の妖術に特化した妖の一族がどこか。それを鬼頭家が知らないとでも思ったか」
現在、隠世で最も術に長けた力を持つ狐の妖。
古い太古の時代から生き永らえてきた一族という肩書きからも保持する力は強力。悔しいが術の高度は鬼である鬼頭家よりも上。
「ふーん。つまり君はその犯人が僕だと言いたいの?」
「お前ほど多くの術に特化した妖はそうはいないからな」
自分とて鬼頭家の当主。
最初の妖、鬼神の血を受け継ぐ王を筆頭に鬼族は妖の中でもトップに名を馳せる。強い御霊を体内に保持し統制力と権力を使い、長く生き続け血を繋いできた。隠世の世界を治める姿は今も昔も変わることはない。
「確かにその術は狐野家が得意とするもの。でも引き換えに莫大な妖力消費が伴う。分家の者はまず使えないし最悪死ぬ。それにこの術は狐野家でも極限られた者しか扱えない禁忌の術だ」
妖族は鬼族に次いで何千年も前から誕生していた妖。
古い歴史書を多く漁り、先祖から受け継いだ術も高度。
術に関する知識も種類も豊富。
中でも幻惑の妖術は大昔から存在する古い太古のもの。
「花嫁ちゃんに興味があるのは本当。でもそんな術を使ってまで花嫁ちゃんを奪おうとは思わない」
「ではお前がやった訳ではないと?」
「はは、疑っているのかい?でも当主である僕が一番に疑われるのは当然か。おまけに使われた術も狐野家御用達のものときちゃね。…どうする?もし犯人が僕というのなら僕を殺すかい?】
ああ、だから嫌なのだ。
こうして相手を試すかのような素振り。
毎度ながら真偽の判断さえ与えてくれないこの男が大嫌いだった。
完全に面白がっている。
殺されることに怯えることも恐れることもしない。
だが鬼族に次いで生まれてきた一族の手前、鬼頭家の次に発言力が強い。
邪険にも扱えない。
万が一、両家に亀裂が入れば。
妖家同士の争いは避けたいし、民衆の上に立つということは名誉と同時に常に危険が伴う。
警戒を緩めてはならない。
何より関わるだけ面倒だ。
「それが出来ないことは貴様がよく分かっている筈。だが鬼頭家はこの件を見過ごすとは言っておらん。例え貴様が違うとて、幻惑の術が使われたことは事実」
「それはつまり、僕に狐野家の内部を調査しろと?」
「どんな形であれ、結果としてうちの花嫁が襲われた。狐野家だけでなく分家にも手を回せ。鬼頭家に喧嘩を売ることが何を意味するのか。賢い貴様になら分かるであろう」
鬼頭白夜の花嫁。
それだけでうちが相手を威嚇するには十分だ。
ただでさえ息子の存在は他の家からすれば脅威。
花嫁を迎え入れた今、あの子が息子との間に子を成せば隠世は更なる脅威へ追い込まれる。これを他の連中が黙って見過ごすとは到底思えない。
だがだからといって鬼頭家は手を出される気はない。
「お~怖い。まあでも疑われるだけのことはあるよね〜今回は僕の監督不届きだった点も大いにあるし。見つければそれなりに厳しい処罰はするつもりだから。安心して】
「なら良い。だが二度はないぞ」
「はいはい。全く君も相変わらずなことで。でもさっきも言った通り、僕は花嫁ちゃんを諦めるつもりはないから」
「…どういうつもりだ」
白夜の花嫁。
それだけで彼がここまで執着しているとは思えない。
本当の目的は一体何だ。
「僕はね、退屈なんだよ。この世界は実に不公平だ。長く変わることのないこの場所で、僕に与えられたのは変化の無い日常と狐野家当主としての役目。妖狐にとって変化こそ大いなる至福だ。狐が人を騙すにも変幻の術を使うでしょ?変化を許されず、この世の秩序だけを守る今の僕。果たして幸せと言えるのかな」
「何が言いたい」
「ふふっ、僕はね、僕を満足させる強い刺激が欲しい。使い古しても廃れることのない。使えば使うだけ磨きがかかるような。何年も下を見下ろしてきた。そんな退屈な僕の日常を照らしてくれる存在。例えばあのガキを手懐けた花嫁とか」
それは妖狐が得意とする妖術の一つ。
対象の相手を視界から惑わし錯乱させることで生じる一瞬の隙をつき攻撃する。術の空間内に留めた相手を遠距離まで操作することも可能であり、これら全てを使いこなせる者はほんの一握り。
「ん~?一体何のことだい?そんな名前の子、僕の知るレディー達の中にはいないけど」
「誤魔化すだけ無駄だ。お翠を惑わせ花嫁を襲った犯人の残影は大方把握できている。幻惑の妖術に特化した妖の一族がどこか。それを鬼頭家が知らないとでも思ったか」
現在、隠世で最も術に長けた力を持つ狐の妖。
古い太古の時代から生き永らえてきた一族という肩書きからも保持する力は強力。悔しいが術の高度は鬼である鬼頭家よりも上。
「ふーん。つまり君はその犯人が僕だと言いたいの?」
「お前ほど多くの術に特化した妖はそうはいないからな」
自分とて鬼頭家の当主。
最初の妖、鬼神の血を受け継ぐ王を筆頭に鬼族は妖の中でもトップに名を馳せる。強い御霊を体内に保持し統制力と権力を使い、長く生き続け血を繋いできた。隠世の世界を治める姿は今も昔も変わることはない。
「確かにその術は狐野家が得意とするもの。でも引き換えに莫大な妖力消費が伴う。分家の者はまず使えないし最悪死ぬ。それにこの術は狐野家でも極限られた者しか扱えない禁忌の術だ」
妖族は鬼族に次いで何千年も前から誕生していた妖。
古い歴史書を多く漁り、先祖から受け継いだ術も高度。
術に関する知識も種類も豊富。
中でも幻惑の妖術は大昔から存在する古い太古のもの。
「花嫁ちゃんに興味があるのは本当。でもそんな術を使ってまで花嫁ちゃんを奪おうとは思わない」
「ではお前がやった訳ではないと?」
「はは、疑っているのかい?でも当主である僕が一番に疑われるのは当然か。おまけに使われた術も狐野家御用達のものときちゃね。…どうする?もし犯人が僕というのなら僕を殺すかい?】
ああ、だから嫌なのだ。
こうして相手を試すかのような素振り。
毎度ながら真偽の判断さえ与えてくれないこの男が大嫌いだった。
完全に面白がっている。
殺されることに怯えることも恐れることもしない。
だが鬼族に次いで生まれてきた一族の手前、鬼頭家の次に発言力が強い。
邪険にも扱えない。
万が一、両家に亀裂が入れば。
妖家同士の争いは避けたいし、民衆の上に立つということは名誉と同時に常に危険が伴う。
警戒を緩めてはならない。
何より関わるだけ面倒だ。
「それが出来ないことは貴様がよく分かっている筈。だが鬼頭家はこの件を見過ごすとは言っておらん。例え貴様が違うとて、幻惑の術が使われたことは事実」
「それはつまり、僕に狐野家の内部を調査しろと?」
「どんな形であれ、結果としてうちの花嫁が襲われた。狐野家だけでなく分家にも手を回せ。鬼頭家に喧嘩を売ることが何を意味するのか。賢い貴様になら分かるであろう」
鬼頭白夜の花嫁。
それだけでうちが相手を威嚇するには十分だ。
ただでさえ息子の存在は他の家からすれば脅威。
花嫁を迎え入れた今、あの子が息子との間に子を成せば隠世は更なる脅威へ追い込まれる。これを他の連中が黙って見過ごすとは到底思えない。
だがだからといって鬼頭家は手を出される気はない。
「お~怖い。まあでも疑われるだけのことはあるよね〜今回は僕の監督不届きだった点も大いにあるし。見つければそれなりに厳しい処罰はするつもりだから。安心して】
「なら良い。だが二度はないぞ」
「はいはい。全く君も相変わらずなことで。でもさっきも言った通り、僕は花嫁ちゃんを諦めるつもりはないから」
「…どういうつもりだ」
白夜の花嫁。
それだけで彼がここまで執着しているとは思えない。
本当の目的は一体何だ。
「僕はね、退屈なんだよ。この世界は実に不公平だ。長く変わることのないこの場所で、僕に与えられたのは変化の無い日常と狐野家当主としての役目。妖狐にとって変化こそ大いなる至福だ。狐が人を騙すにも変幻の術を使うでしょ?変化を許されず、この世の秩序だけを守る今の僕。果たして幸せと言えるのかな」
「何が言いたい」
「ふふっ、僕はね、僕を満足させる強い刺激が欲しい。使い古しても廃れることのない。使えば使うだけ磨きがかかるような。何年も下を見下ろしてきた。そんな退屈な僕の日常を照らしてくれる存在。例えばあのガキを手懐けた花嫁とか」



