鬼頭深夜。
三大妖家の一つ、鬼頭家の当主にして黒鬼一族の最高権力者。溢れ出る妖力は衰えることを覚えず、冷静な判断能力と温厚な性格で多くの妖達から絶大な信頼を得ている。
王家の遠い親戚である鬼頭家はその忠誠心が何処よりも強い。深夜もまた、王への忠誠心を強く持った非常にプライドの高い持ち主だった。
「…そろそろか」
深夜の合図と共に目の前に設置されたモニターが音を出して切り替わる。
【やあやあ諸君、久しいねぇ】
「…狐野か」
モニター越しから聞こえてきた声の主は妖狐一族である狐野家からのもの。
簾越しなのか顔は隠れていて見えない。
だが久しぶりとはいえ、彼は相変わらず変わらないようだ。
するともう一つのモニターも音を立てて切り替わる。
【ふん、腹立たしい。わしは貴様らとの長話など好かん。さっさと始めろ】
そう不満気な声を漏らしたのは天狗一族の風見家。
彼もまた天狗の面を付ければ素顔を隠している。
今日は三大妖家の当主のみが集う二年に一度の定例会議だ。隠世の各領土を纏める妖家が年内の出来事を報告し合う極めて重要な会議であり、ここで話された話題は内容によっては王家にも報告される。
たが、三大妖家は家同士が非常に仲が悪いので有名だ。
昔から相手同士との折り合いが異常に噛み合わない。
互いに干渉するのさえ、酷く嫌み嫌っている。
そのため王家からの呼び出しがない限りはお互いに顔を合せることもしない。
「はぁ。これより上位会議を始める。今回話すのは私だ。鬼頭家では今年、息子が現世から花嫁を迎い入れた」
【ふーん、鬼神のガキに花嫁をねぇ~。噂には聞いていたけど。あれ、本当だったんだ】
「久野家では数十年ぶりに強い封力を持った娘が生まれたと聞いてな。白夜の今後の為にも早急に手を打ちたかった」
【あは、貧弱な人間の娘にあのガキの子守りが務まるのかよ】
【煩いぞ狐野!で、花嫁の様子は?】
「問題ない。白夜の妖力も鬼頭家と共に安定している」
【ふん、花嫁など所詮は妖の小道具にすぎん。我ら妖家の血を途絶えさせぬよう、与えられた仕事さえ果たしてくれるのなら後はどうなろうと構わん】
実に風見家らしい発言だ。
そう言えばコイツはそういう男だったな。
天狗の一族は気性が荒く少々亭主関白地味たところがある。
男尊女卑も激しい。
女を子を産む為の道具としてでしか利用価値を見出さない思想は今も変わらない。
そんな強い威厳とプライドの高さが、一族を三大妖家まで這い上がらせてきたわけではあるが。
だが以外にも、花嫁に対する評価はそこそこ悪くない。
打算的にものを言うが、花嫁に実力さえ備わっていればいい話。
それなりに嫁げば優遇扱いされることも多いのだろう。
だがそう考えれば、もしも異能を持たぬあの子が風見家に渡っていたとすれば。
きっと今頃、命などなかった。
使えぬ駒に取捨選択の予知を与えるほど、所詮この一族は甘くない。
【鬼神君は今までにも沢山のレディー達を突き返してきた。興味をもたないことでも有名だったのに。無理やり娶らせるような真似なんかしちゃって、花嫁ちゃん殺されてな~い?】
ケラケラと可笑しそうに笑う狐野家。
この男は屈託なく、いつでも笑っているのが特徴的だった。
怒ることも滅多にない。
常に笑っているため優男として巷では有名だ。
まだ若く、当主となって百年ほどしか経っていない。
だが若造のわりには頭のキレは半端なく、裏では何を考えているのかサッパリだ。
風見家とはまた違う。
何もかもが読めない偽りの笑みを顔へと貼り付けて。
普段は表面上の付き合いだけをしているだけのようにも見える。ある意味、気味が悪かった。
「問題ない。お前達が心配しなくともアイツは花嫁とは上手くやれている」
【うっそ〜ん!!じゃああのガキはその娘を気に入ったってことかい?てっきり殺すのかと思って期待してたのに】
「…狐野、貴様」
【あは、冗談だよ~。でももしも鬼神君がその娘を捨てるようなことが今後あれば。その時はその子、僕に頂戴?】
「何?」
狐野家と風見家は同じく三年前に花嫁を八雲家と南條家からそれぞれ迎い入れた。
ここにきて狐野家が時雨さんを貰い受けたいとは何が目的だ。
【あの鬼神君がお気に召した娘。なんだか僕も興味が湧いてきちゃった。もしも気に入ったならば僕の子一杯孕ませちゃおっかな♡】
【気色の悪いことを。実に不愉快極まりない】
【え〜酷いな風見殿は。でも考えてみればあの鬼神が受け入れた。それも相手は人間の娘なんだよ?妖と人間の恋だなんて実にロマンチックじゃないか♡】
【下らん。そんな色恋妄想にうつつを抜かすからこの世は未だ安定せぬのだ。邪気を吸わせ妖力を蓄える。花嫁が然るべき場所で然るべき対応さえしていれば何も問題はない。よいか鬼頭、くれぐれも問題を起こすではないぞ?】
「…ああ、分かっている」
【ならよい、もう話すことはないな】
その言葉を最後に風見はモニターから姿を消した。
そうして後に残ったのは深夜と狐野家だけとなった。
「狐野、うちの花嫁を貴様に譲渡するつもりはない」
【いいさ、そう焦らずともゆっくり待つさ。これでも僕は気が長~いタイプだからね】
「何が目的だ?お翠を利用したのと何か関係があるのか」
三大妖家の一つ、鬼頭家の当主にして黒鬼一族の最高権力者。溢れ出る妖力は衰えることを覚えず、冷静な判断能力と温厚な性格で多くの妖達から絶大な信頼を得ている。
王家の遠い親戚である鬼頭家はその忠誠心が何処よりも強い。深夜もまた、王への忠誠心を強く持った非常にプライドの高い持ち主だった。
「…そろそろか」
深夜の合図と共に目の前に設置されたモニターが音を出して切り替わる。
【やあやあ諸君、久しいねぇ】
「…狐野か」
モニター越しから聞こえてきた声の主は妖狐一族である狐野家からのもの。
簾越しなのか顔は隠れていて見えない。
だが久しぶりとはいえ、彼は相変わらず変わらないようだ。
するともう一つのモニターも音を立てて切り替わる。
【ふん、腹立たしい。わしは貴様らとの長話など好かん。さっさと始めろ】
そう不満気な声を漏らしたのは天狗一族の風見家。
彼もまた天狗の面を付ければ素顔を隠している。
今日は三大妖家の当主のみが集う二年に一度の定例会議だ。隠世の各領土を纏める妖家が年内の出来事を報告し合う極めて重要な会議であり、ここで話された話題は内容によっては王家にも報告される。
たが、三大妖家は家同士が非常に仲が悪いので有名だ。
昔から相手同士との折り合いが異常に噛み合わない。
互いに干渉するのさえ、酷く嫌み嫌っている。
そのため王家からの呼び出しがない限りはお互いに顔を合せることもしない。
「はぁ。これより上位会議を始める。今回話すのは私だ。鬼頭家では今年、息子が現世から花嫁を迎い入れた」
【ふーん、鬼神のガキに花嫁をねぇ~。噂には聞いていたけど。あれ、本当だったんだ】
「久野家では数十年ぶりに強い封力を持った娘が生まれたと聞いてな。白夜の今後の為にも早急に手を打ちたかった」
【あは、貧弱な人間の娘にあのガキの子守りが務まるのかよ】
【煩いぞ狐野!で、花嫁の様子は?】
「問題ない。白夜の妖力も鬼頭家と共に安定している」
【ふん、花嫁など所詮は妖の小道具にすぎん。我ら妖家の血を途絶えさせぬよう、与えられた仕事さえ果たしてくれるのなら後はどうなろうと構わん】
実に風見家らしい発言だ。
そう言えばコイツはそういう男だったな。
天狗の一族は気性が荒く少々亭主関白地味たところがある。
男尊女卑も激しい。
女を子を産む為の道具としてでしか利用価値を見出さない思想は今も変わらない。
そんな強い威厳とプライドの高さが、一族を三大妖家まで這い上がらせてきたわけではあるが。
だが以外にも、花嫁に対する評価はそこそこ悪くない。
打算的にものを言うが、花嫁に実力さえ備わっていればいい話。
それなりに嫁げば優遇扱いされることも多いのだろう。
だがそう考えれば、もしも異能を持たぬあの子が風見家に渡っていたとすれば。
きっと今頃、命などなかった。
使えぬ駒に取捨選択の予知を与えるほど、所詮この一族は甘くない。
【鬼神君は今までにも沢山のレディー達を突き返してきた。興味をもたないことでも有名だったのに。無理やり娶らせるような真似なんかしちゃって、花嫁ちゃん殺されてな~い?】
ケラケラと可笑しそうに笑う狐野家。
この男は屈託なく、いつでも笑っているのが特徴的だった。
怒ることも滅多にない。
常に笑っているため優男として巷では有名だ。
まだ若く、当主となって百年ほどしか経っていない。
だが若造のわりには頭のキレは半端なく、裏では何を考えているのかサッパリだ。
風見家とはまた違う。
何もかもが読めない偽りの笑みを顔へと貼り付けて。
普段は表面上の付き合いだけをしているだけのようにも見える。ある意味、気味が悪かった。
「問題ない。お前達が心配しなくともアイツは花嫁とは上手くやれている」
【うっそ〜ん!!じゃああのガキはその娘を気に入ったってことかい?てっきり殺すのかと思って期待してたのに】
「…狐野、貴様」
【あは、冗談だよ~。でももしも鬼神君がその娘を捨てるようなことが今後あれば。その時はその子、僕に頂戴?】
「何?」
狐野家と風見家は同じく三年前に花嫁を八雲家と南條家からそれぞれ迎い入れた。
ここにきて狐野家が時雨さんを貰い受けたいとは何が目的だ。
【あの鬼神君がお気に召した娘。なんだか僕も興味が湧いてきちゃった。もしも気に入ったならば僕の子一杯孕ませちゃおっかな♡】
【気色の悪いことを。実に不愉快極まりない】
【え〜酷いな風見殿は。でも考えてみればあの鬼神が受け入れた。それも相手は人間の娘なんだよ?妖と人間の恋だなんて実にロマンチックじゃないか♡】
【下らん。そんな色恋妄想にうつつを抜かすからこの世は未だ安定せぬのだ。邪気を吸わせ妖力を蓄える。花嫁が然るべき場所で然るべき対応さえしていれば何も問題はない。よいか鬼頭、くれぐれも問題を起こすではないぞ?】
「…ああ、分かっている」
【ならよい、もう話すことはないな】
その言葉を最後に風見はモニターから姿を消した。
そうして後に残ったのは深夜と狐野家だけとなった。
「狐野、うちの花嫁を貴様に譲渡するつもりはない」
【いいさ、そう焦らずともゆっくり待つさ。これでも僕は気が長~いタイプだからね】
「何が目的だ?お翠を利用したのと何か関係があるのか」