白鬼の封印師

「夫婦の契約ですか?」

その言葉に困惑してしまう。
自分は鬼頭家に嫁いだ花嫁。
今更そんな契約する必要はないのでは?

「心配せずとも私は鬼頭家の花嫁ですよ?」
「だがまだ結婚してない。花嫁を迎えたとしても俺達の関係は婚約者同士のまま。今ここでお前が誰のものなかをハッキリさせとこうと思ってな」

そう言いニヤリと笑う白夜。
契約を施せばそれは縛りに変わる。
つまり婚約者という口先だけの関係を本当に結んでしまおうというわけだ。

「ま、細かいことは気にすんなって。助けたいんだろ?」
「それは…そうですけど」
「ならほら。手、出せ」

なんでさっきから笑ってるんだろう?
白夜の顔に違和感しかない時雨だったが、お翠を救いたい気持ちが強かった為か二つ返事でその願いを了承すれば手を差し出す。所詮は一度契約した身。ここで契約内容が一つ増えようと対して問題にはならないだろう。この時の時雨はそう思っていた。

「左手な」

そこで左手を差し出せば白夜が手を取り口を近づけた。

「言質とったからな。互いの意思に則り、これでお前は永遠に俺のもんだ」

白夜はそう言う何のためらいもなく時雨の甲へ口付けをした。

「え、いっ!」

突然の口付けに驚くも、次の瞬間、手首には激しい熱が帯び始めた。じりじりとした激痛に思わず顔を歪めるも痛みは直ぐ和いだ。見てれば手首一周を囲うように鎖状の模様が浮かび上がっていた。

「初めてにしては上手くいったな」

白夜も自身の腕を見せてくれば、そこにも同じように鎖状の模様が浮かんでいた。

「あの白夜様。この契約には一体どんな意味があるのですか?」

時雨はおずおずと尋ねてみた。
手首の模様はそれからスッと消えてしまう。

「まず俺の作った契約は大きく分けて二パターン。一つは俺との間に主従を作るもの。別名『生の契約』だ。通常は表向きに用いられるもんで、お前や鳳魅、お翠がこれに該当している」

なるほど。
あの時に結んだ契約が生の契約。
鳳魅もお翠も、その他の妖達もこれに基づいて白夜に監視されている。

「もう一つ」

そう言いジリジリと近づいて来く白夜。
時雨は思わず後ずさるも直ぐ後ろは壁。
あっという間に背中が付いてしまうとこれ以上引き下がれない。
白夜は時雨の目の前までくれば、両手を壁につき時雨を挟み込むような体勢で見下ろした。ジッと見つめる瞳からは強いオーラが感じられ、体は緊張で硬直するも謎に白夜からは目を離せなかった。

「今までどんな妖にも使ったことはねぇ。求めなければ存在さえ知ることはない。俺が裏向きに編み出した史上最大の契約。それが『死の契約』だ」
「死の…契約?」
「相即不離縛りとも言って相手だけでなく俺自身にも強い縛りがかかる。この契約は切っても切れない関係を互いに生ませる。もちろん俺にも解除することはできない」

生と死、二つの契約。
うち死の契約は白夜でさえ解除不可。
一度結べば永遠に解けない。
まるで呪いのようだ。

「……」
「……」
「…え、まさか……その契約って!!」
「そゆこと~」

やっぱり!
さっきしたのは死の契約だったんだ!
つまり白夜は生まれて初めて死の契約を時雨相手に使ってしまった。内容は夫婦になること。互いを強く縛り付けて離れられなくしてしまったということだ。

「なぜそれを私に⁉しかも内容は夫婦になることでしたよね?つまり私達は夫婦として一生離れられなくなっちゃいましたよ!」
「そうだけど?」
「それが何を意味するか分かっているのですか⁈どちらか一方が欠けてしまったら相手にも同じ代償がかかる。デメリットだらけの私にその契約を使用するなんて。白夜様には何のメリットもないというのに!」
「あ?そんなの腐るほどあんだろ。俺はお前が好き。だからこれで永遠にお前が手に入った。お前は俺に守られる。これで大方のリスクを必要最小限に抑えられたんだ」

ほんと得しかねぇな~なんて。
吞気に私の頬を撫でる大きな手。
時雨は啞然として言葉が出て来なかった。
狂ってる。
もし万が一、無能である事実が隠世にばれたら。
自分に何かあったとすれば白夜まで道連れである。

「私達の関係はいずれ世間にばれてしまいます。私が死ぬようなことがあれば白夜様も死んでしまうかもしれません」
「構わねぇ」
「…え」

つい感情的になるも返ってきた言葉に固まった。
白夜はどこか落ち着いていて何も言わず笑ったまま。時雨の頬を愛おしそうに撫でていたが、ふと手を止めれば今度は両手でその顔を包み込んだ。突然のことにビックリするも白夜が顔を近づければコツンとおでこ同士がぶつかった。

「好きな女の為なら…お前の為なら。この先何が起ころうと自分の命ぐらい喜んでくれてやる…なあ時雨、」

愛してるよ。