「…」
「小っこいくせに無駄に虚勢を張って俺に向かって来るあの態度。今まで会ったどんな奴らとも違う。見ていて飽きる気がしねぇ」
初めて対面したあの日、コイツは確かにあの子を拒絶した。
ましては可愛いだなんて。
今のコイツからは到底考えられない。
それほどまで毛嫌いしていたというのに。
だがどんなに時間がかかってもいい。
鬼頭家の為に。
少しでも白夜が異能を持つ人間の娘を気に入ってくれさえすればそれだけでいいと思っていた。
だからあの子から白夜の名前が出た時は内心驚いた。
自分の知らない所で、まさかこんな短期間の間にお互いが接点を持つ仲になっていたとは。
「白夜、分かっている筈だ。あの子は」
「異能がねぇ。そう、アイツは異能のないただの人間の娘」
「…やはり知っていたか」
「会った時から知ってた。アンタだって鬼頭家の当主なんだ。この問題には遅かれ早かれ気付いていただろうが。ま、その様子じゃ久野家にはまだ何も連絡していないんだろ?」
鬼頭家が今回、久野家に要求したのは数年ぶりに高い封力を受け継いだという娘。
花嫁として白夜と結婚してくれれば。
鬼頭家を更なる繁栄へ。
白夜の妖力補助にも繋がると思い期待していたというのに。なのに久野家が今回隠世側へと差し出してきたのは。
「白夜、お前はどうしたい?」
自分とて馬鹿ではない。
鬼頭家当主としてあの子に若干の違和感を感じてはいた。だが白夜が何も指摘しなかったため暫くは様子を見守るつもりでいた。
「例え久野家の人間とて異能を持たない身ではお前にとって何の役にも立たん。鬼頭家や今後の隠世にもだ。両世界に基づく契約を久野家は裏切った。ならば」
国の為にもあの子を殺すしか…。
「必要ねぇ」
白夜はそう言い立ち上がると深夜へと向き直った。
「アイツは俺に納得のいく生き方をここですると約束した。異能がないのを分かった上でこの俺に約束したんだ。契約によって俺に縛られた以上、アイツはもう俺のもんだ」
深夜はそれを聞くと息を呑み目を見開いた。
「白夜!お前は自分が何を言っているのか分かっているのか⁉」
花嫁に異能が無い。
つまりコイツの妖力に今後も制限がかけられない。
危険すぎる。
もしも万が一、邪気の影響をくらい続けて白夜が暴走するような未来が起これば取り返しが。
「縛りに則り、異能を持たない娘を迎い入れることはあってはならん。あの子には力がない。あの子の為にも。お前自身の為にもだ。ならば今すぐ久野家から例の娘を」
「いやだね。俺は一度決めたら曲げない主義なんで。言った筈だ、俺はアイツだから契約した。過去の女達とは違う。異能がない身で必死に生きようとあがいている姿には強い意志を感じた。俺の嫁にするにはそんだけで十分。今更逃してたまるかよ!!」
「…そこまでなのか?」
「ああ。俺はアイツを愛してる。今はただそんなアイツが愛おしくてたまんねぇよ」
「!!」
何故だ、何故そこまであの子を…。
あの子の何がお前をそこまでさせた。
「アイツを信じると決めたんだ。本来ならお翠を殺すとこも、アイツの行動次第では折れてやろうと思ったのさ」
「お翠が助かる方にかけてあの子を試したと?」
猶予の中であの子がお翠を助ければ、例え自分の契約にそぐわない行為とて生かすつもりだったと。
納得のいく生き方。
それは白夜が一度認めた相手を、同じくあの子も認めるのかを試すつもりでもあったという訳か。
鳳魅から話を聞いてはいたがあの子は鳳魅の存在を認めた。
ならお翠ならどうか?
結果は見事、あの子は鳳魅同様にお翠を認めた。
だから約束通り助けると?
強大な縛りの関係をあの子の為に自ら破ってしまうとは。
「王家が黙っておらんぞ」
異能があるからこそ、その貴重な存在に隠世では嫁入りが認められている。
だが今回、隠世で名を馳せる鬼神が花嫁に選んだのは異能を持たない人間の娘。
この事実が王家に知られたりでもしたら…。
「ま、そん時はそん時だろ。だがどんな理由にせよ、アイツは俺が認めた俺だけの花嫁だ。この先死んでも離すつもりはねぇ。アンタは黙ってみてろ」
「…」
白夜は何も言い返せないままの深夜を一瞥すれば、颯爽とその部屋を後にしてしまった。
すると部屋は再び静寂に包まれた。
「…王手か」
深夜が将棋盤に目を向ければ、そこには詰みの駒だけがぽつんと取り残されていた。
「小っこいくせに無駄に虚勢を張って俺に向かって来るあの態度。今まで会ったどんな奴らとも違う。見ていて飽きる気がしねぇ」
初めて対面したあの日、コイツは確かにあの子を拒絶した。
ましては可愛いだなんて。
今のコイツからは到底考えられない。
それほどまで毛嫌いしていたというのに。
だがどんなに時間がかかってもいい。
鬼頭家の為に。
少しでも白夜が異能を持つ人間の娘を気に入ってくれさえすればそれだけでいいと思っていた。
だからあの子から白夜の名前が出た時は内心驚いた。
自分の知らない所で、まさかこんな短期間の間にお互いが接点を持つ仲になっていたとは。
「白夜、分かっている筈だ。あの子は」
「異能がねぇ。そう、アイツは異能のないただの人間の娘」
「…やはり知っていたか」
「会った時から知ってた。アンタだって鬼頭家の当主なんだ。この問題には遅かれ早かれ気付いていただろうが。ま、その様子じゃ久野家にはまだ何も連絡していないんだろ?」
鬼頭家が今回、久野家に要求したのは数年ぶりに高い封力を受け継いだという娘。
花嫁として白夜と結婚してくれれば。
鬼頭家を更なる繁栄へ。
白夜の妖力補助にも繋がると思い期待していたというのに。なのに久野家が今回隠世側へと差し出してきたのは。
「白夜、お前はどうしたい?」
自分とて馬鹿ではない。
鬼頭家当主としてあの子に若干の違和感を感じてはいた。だが白夜が何も指摘しなかったため暫くは様子を見守るつもりでいた。
「例え久野家の人間とて異能を持たない身ではお前にとって何の役にも立たん。鬼頭家や今後の隠世にもだ。両世界に基づく契約を久野家は裏切った。ならば」
国の為にもあの子を殺すしか…。
「必要ねぇ」
白夜はそう言い立ち上がると深夜へと向き直った。
「アイツは俺に納得のいく生き方をここですると約束した。異能がないのを分かった上でこの俺に約束したんだ。契約によって俺に縛られた以上、アイツはもう俺のもんだ」
深夜はそれを聞くと息を呑み目を見開いた。
「白夜!お前は自分が何を言っているのか分かっているのか⁉」
花嫁に異能が無い。
つまりコイツの妖力に今後も制限がかけられない。
危険すぎる。
もしも万が一、邪気の影響をくらい続けて白夜が暴走するような未来が起これば取り返しが。
「縛りに則り、異能を持たない娘を迎い入れることはあってはならん。あの子には力がない。あの子の為にも。お前自身の為にもだ。ならば今すぐ久野家から例の娘を」
「いやだね。俺は一度決めたら曲げない主義なんで。言った筈だ、俺はアイツだから契約した。過去の女達とは違う。異能がない身で必死に生きようとあがいている姿には強い意志を感じた。俺の嫁にするにはそんだけで十分。今更逃してたまるかよ!!」
「…そこまでなのか?」
「ああ。俺はアイツを愛してる。今はただそんなアイツが愛おしくてたまんねぇよ」
「!!」
何故だ、何故そこまであの子を…。
あの子の何がお前をそこまでさせた。
「アイツを信じると決めたんだ。本来ならお翠を殺すとこも、アイツの行動次第では折れてやろうと思ったのさ」
「お翠が助かる方にかけてあの子を試したと?」
猶予の中であの子がお翠を助ければ、例え自分の契約にそぐわない行為とて生かすつもりだったと。
納得のいく生き方。
それは白夜が一度認めた相手を、同じくあの子も認めるのかを試すつもりでもあったという訳か。
鳳魅から話を聞いてはいたがあの子は鳳魅の存在を認めた。
ならお翠ならどうか?
結果は見事、あの子は鳳魅同様にお翠を認めた。
だから約束通り助けると?
強大な縛りの関係をあの子の為に自ら破ってしまうとは。
「王家が黙っておらんぞ」
異能があるからこそ、その貴重な存在に隠世では嫁入りが認められている。
だが今回、隠世で名を馳せる鬼神が花嫁に選んだのは異能を持たない人間の娘。
この事実が王家に知られたりでもしたら…。
「ま、そん時はそん時だろ。だがどんな理由にせよ、アイツは俺が認めた俺だけの花嫁だ。この先死んでも離すつもりはねぇ。アンタは黙ってみてろ」
「…」
白夜は何も言い返せないままの深夜を一瞥すれば、颯爽とその部屋を後にしてしまった。
すると部屋は再び静寂に包まれた。
「…王手か」
深夜が将棋盤に目を向ければ、そこには詰みの駒だけがぽつんと取り残されていた。