—パチン
一室に響くのは将棋の音。
中庭の蓮池から聞こえる河鹿の声。
部屋では二人の人物による将棋の指し合いが行われていた。
「どうするつもりだ、お翠を謹慎にして今日で三日となる」
「だから?」
肘をついて不機嫌そうにする白夜。
「そこまでの情がお前にもあったとはな。いつものお前なら考えられん。余程気に入ったと見えるが?」
「違げーよ。アイツは見込みがあったから連れて帰った。それだけのことだろ」
「なら何故殺さん」
—パチン!
「殺していいの?」
「…契約者との縛りは絶対なのだろう?お前に逆らう。それはつまりお前の中ではそういう意味だ。あの日から実に三日も経過している。なのにお前は依然としてこの件を保留にしたままだ。何が目的だ」
「目的ねぇ~」
言葉を焦らす白夜だったが突如、その顔は意地の悪い顔付きへ変貌を遂げる。
ゆっくりと顔を上げれば深夜を見据えた。
深夜はその顔に謎の違和感を覚えると眉を顰めた。
この顔には見覚えがあったからだ。
「…お前」
「(ニヤリ)」
「(コイツ…まさか)」
深夜はそこで全てを理解すると深く溜息をついて額に手を当てた。
「まったくお前という奴は」
コイツの薄気味悪い笑顔が考えてることといったら。
いつだって碌な試しがない。
「つまりあの子を試したか」
「さ~てね」
「恍けるな。お前の事だ、どうせ今回の処遇はあの子本人に任せると。そう私が言っていたとでも偽って、その動向を見守るつもりだったな?」
自分は今回の件に一切口を出せない。
いや違う。
この契約に首を突っ込めないのだ。
何故ならこの契約の制度事態を生み出したのは白夜本人。それも自分にしか扱うことが出来ない高度のものだからだ。
コイツは自分の存在と立ち位置を上手く利用している。
三歳で千里眼の才を開花させた裏では密かに契約を作り始めていたのだ。
妖達との交流はその相手によっては今後の未来を大きく左右させてしまう。
鬼神の生まれ変わりとして生まれてきた白夜の持つ力には三大妖家の当主でさえ到底敵わない。
妖王が恐れているのはこれだ。
王家の遠い先祖は鬼神、即ち白夜なのではないかと考えている。最悪、自分の立場がコイツによって奪われることを酷く恐れているのだろう。
だが気づいた時、白夜は既にこの契約を完成させてしまった。自分が見通し、選びに選び抜いた妖達のみに発動させる契約の力。
所詮は生かすも殺すもその所有権は白夜のみ。
強い妖力で作り出されたこの契約を解除させるのは現状妖王とて不可能。
「(コイツは…)」
お翠の置かれた今回の立場を上手く利用したのだ。
あの子の行動次第で今後の方針を決めようと最悪の判決を下しているということ。恐らくこの様子ではお翠の処遇がコイツ本人にあることも、契約の仕組みさえもあの子には話していないのだろう。
あの子がお翠を助けたのなら生かす。
助けないまたは見守ることしかしなければ殺すとでもいった算段か。
どこまでも残酷なことをしでかす。
「なーんか色々考えているよーだな。ま、アンタのことだ。大方理解はできてんだろ?俺が慈悲として設けた猶予は三日。謹慎にした日から今日までで実に三日だ。ようはギリセーフつー訳だ」
「…あの子が助けていなければお翠を殺していた訳だな?」
その問いに白夜は答えない。
が、顔は物語っている。
コイツに情けなど無かった。
どんな理由にしろ、鬼神を裏切った。
コイツにとっては、それだけで殺すには十分だと。
そう契約の規約に定めた方針という訳か。
我が子ながら、誰にも止められないこの子の存在が時に恐ろしく思えてくる。
だがここまでしなければいけない理由とは一体なんだ。
「何故、あの子をお翠の処遇に含ませた?」
「…可愛いいんだよアイツ」
一室に響くのは将棋の音。
中庭の蓮池から聞こえる河鹿の声。
部屋では二人の人物による将棋の指し合いが行われていた。
「どうするつもりだ、お翠を謹慎にして今日で三日となる」
「だから?」
肘をついて不機嫌そうにする白夜。
「そこまでの情がお前にもあったとはな。いつものお前なら考えられん。余程気に入ったと見えるが?」
「違げーよ。アイツは見込みがあったから連れて帰った。それだけのことだろ」
「なら何故殺さん」
—パチン!
「殺していいの?」
「…契約者との縛りは絶対なのだろう?お前に逆らう。それはつまりお前の中ではそういう意味だ。あの日から実に三日も経過している。なのにお前は依然としてこの件を保留にしたままだ。何が目的だ」
「目的ねぇ~」
言葉を焦らす白夜だったが突如、その顔は意地の悪い顔付きへ変貌を遂げる。
ゆっくりと顔を上げれば深夜を見据えた。
深夜はその顔に謎の違和感を覚えると眉を顰めた。
この顔には見覚えがあったからだ。
「…お前」
「(ニヤリ)」
「(コイツ…まさか)」
深夜はそこで全てを理解すると深く溜息をついて額に手を当てた。
「まったくお前という奴は」
コイツの薄気味悪い笑顔が考えてることといったら。
いつだって碌な試しがない。
「つまりあの子を試したか」
「さ~てね」
「恍けるな。お前の事だ、どうせ今回の処遇はあの子本人に任せると。そう私が言っていたとでも偽って、その動向を見守るつもりだったな?」
自分は今回の件に一切口を出せない。
いや違う。
この契約に首を突っ込めないのだ。
何故ならこの契約の制度事態を生み出したのは白夜本人。それも自分にしか扱うことが出来ない高度のものだからだ。
コイツは自分の存在と立ち位置を上手く利用している。
三歳で千里眼の才を開花させた裏では密かに契約を作り始めていたのだ。
妖達との交流はその相手によっては今後の未来を大きく左右させてしまう。
鬼神の生まれ変わりとして生まれてきた白夜の持つ力には三大妖家の当主でさえ到底敵わない。
妖王が恐れているのはこれだ。
王家の遠い先祖は鬼神、即ち白夜なのではないかと考えている。最悪、自分の立場がコイツによって奪われることを酷く恐れているのだろう。
だが気づいた時、白夜は既にこの契約を完成させてしまった。自分が見通し、選びに選び抜いた妖達のみに発動させる契約の力。
所詮は生かすも殺すもその所有権は白夜のみ。
強い妖力で作り出されたこの契約を解除させるのは現状妖王とて不可能。
「(コイツは…)」
お翠の置かれた今回の立場を上手く利用したのだ。
あの子の行動次第で今後の方針を決めようと最悪の判決を下しているということ。恐らくこの様子ではお翠の処遇がコイツ本人にあることも、契約の仕組みさえもあの子には話していないのだろう。
あの子がお翠を助けたのなら生かす。
助けないまたは見守ることしかしなければ殺すとでもいった算段か。
どこまでも残酷なことをしでかす。
「なーんか色々考えているよーだな。ま、アンタのことだ。大方理解はできてんだろ?俺が慈悲として設けた猶予は三日。謹慎にした日から今日までで実に三日だ。ようはギリセーフつー訳だ」
「…あの子が助けていなければお翠を殺していた訳だな?」
その問いに白夜は答えない。
が、顔は物語っている。
コイツに情けなど無かった。
どんな理由にしろ、鬼神を裏切った。
コイツにとっては、それだけで殺すには十分だと。
そう契約の規約に定めた方針という訳か。
我が子ながら、誰にも止められないこの子の存在が時に恐ろしく思えてくる。
だがここまでしなければいけない理由とは一体なんだ。
「何故、あの子をお翠の処遇に含ませた?」
「…可愛いいんだよアイツ」