白夜は余裕な笑みを浮かべる。
その顔からは無邪気な様子も伺えた。
「小っこいくせに無駄に虚勢ばっか張って、俺に向かってくるあの態度。今まで会ったどんな奴らとも違う。見ていて飽きない」
初めて対面した日、息子は確かにあの子を拒絶した。
ましては可愛いだなんて。
今の彼からは到底考えられない。
それほどまで毛嫌いしていたというのに。
だがどんなに時間がかかってもいい。
鬼頭家の為に。
少しでも息子が異能を持つ人間の娘を気に入ってくれさえすればそれだけでいいと思っていた。だからあの子から白夜の名前が出た時は内心驚いた。自分の知らない所で。まさかこんな短期間でお互いが接点を持つ仲になっていたとは。
「…白夜、分かっている筈だ。あの子は、、、」
「異能がねぇ。そう、アイツは異能のない、ただの人間の娘」
「やはり知っていたか」
「会った時から知ってた。アンタだって鬼頭家の当主なんだ。この問題には遅かれ早かれ気付いていただろうが。ま、その様子じゃ久野家にはまだ何も連絡していないんだろ?」
鬼頭家が久野家に要求したのは数年ぶりに高い封力を受け継いだという娘。
その子が花嫁として白夜と結婚してくれれば。
鬼頭家を更なる繁栄へ。
白夜の妖力補助にも繋がると思い期待していたというのに。
なのに久野家が隠世へ送り込んできたのは。
「白夜、お前はどうしたい?」
自分とて馬鹿ではない。
鬼頭家当主として。
あの子に若干の違和感を感じていた。
だが白夜が何も指摘しなかったため、自分からは敢えて言及せずに暫くは様子を見守るつもりでいた。それでも時というのは嫌でも訪れるもの。
「例え久野家の人間とて、異能を持たない人間などお前にとって何の役にも立たん。鬼頭家や今後の隠世にもだ。両世界に基づく契約を久野家は裏切った。ならば、」
国の為にも。
そして鬼頭家の為にも。
あの娘を殺すしか、、、
「必要ねぇ」
だが不意に白夜はそう言い立ち上がる。
「アイツは俺に納得のいく生き方をすると約束した。これは俺との契約だ。異能がないのを分かった上でこの俺様と約束したんだ。縛りを結んだ以上、アイツはもう俺のもんだ」
深夜はそれを聞くと息をのみ慌てた。
「白夜!お前は自分が何を言っているのか分かっているのか⁉」
花嫁に異能が無い。
つまり白夜自身の妖力に今後も制限はかからない。
強い妖からは強い邪気が生まれる。
万が一、邪気の影響を喰らい続け、白夜が暴走するようなことがあれば、、
「異能を持たない娘を迎い入れることは固く禁じている。あってはならん。あの子の為にも。お前自身の為にもだ。今すぐ久野家から例の娘を花嫁に迎い入れさせる。だから考え直すのだ」
「いや~だね。俺は一度決めたら曲げない主義なんで。言った筈だ、俺はアイツだから契約したと。過去の女達とは違う。異能がない身で必死に生きようとあがいている姿に俺は強い意志を感じた。俺の嫁にするにはそんだけで十分」
「白夜!これは鬼頭家当主としての命令だ!今すぐ彼女と婚約破棄をしろ」
「ぜってぇ嫌だ。俺の邪魔はさせない。アイツは俺のだ。今更逃してたまるかよ!!」
「…そこまでなのか?」
その強い意志に深夜は圧倒された。
ここまで感情的に何か一つのことに執着する息子を見たことはなかったからだ。
「俺はアイツを愛してる。今はただ…アイツが愛おしい」
「何故だ、何故そこまであの子を…あの子の何がお前をそうさせた」
「アイツを信じると決めた。本来ならお翠を殺すとこだった。それでもアイツの頼み次第では折れてやろうと思ったのさ」
「…お翠は助かると。お前は心の何処かで、本当は彼女がそうする筈だと信じているのか」
猶予の中、彼女がお翠を助ける保障は未だ不明。
例え自分の契約にそぐわない行為とて、彼女次第では生かすこともしてやれると?
納得のいく生き方。
それは白夜が一度認めた相手を同じく彼女も認めるのか。
最初から全て試していたつもりか。
鳳魅から話を聞いてはいたが、あの子は鳳魅の存在を認めた。
ならお翠ならどうか?
結果は見事、あの子は鳳魅同様にお翠を認めようとしている可能性が高い。それを決定づけたのは鳳魅の元から持ち帰ったとされる解毒剤。お翠が寝込み、介抱することを証明づける言動だった。
強大な縛りを好きを理由に自ら破ってしまうとは。
「王家が黙っておらんぞ」
異能があるからこそ、その貴重な存在に隠世では嫁入りが認められている。
だが今回、隠世で名を馳せる鬼神が花嫁に選んだのは異能を持たない人間の娘。
この事実が王家に知られたりでもしたら…。
「そん時はそん時だろ。先の未来を今から不安視してどうすんだよ。嫌でも未来なんざくるもんなんだし。どんな理由にせよ、アイツは俺が認めた俺だけの花嫁だ。この先も死んでも離すつもりはねぇ。アンタは黙ってみてろ」
「……」
白夜は何も言い返さない深夜を一瞥すれば颯爽と部屋を後にしてしまった。
すると部屋は静寂に包まれた。
「…王手か」
深夜が将棋盤に目を向ければ、そこには詰みの駒だけがぽつんと取り残されていた。
その顔からは無邪気な様子も伺えた。
「小っこいくせに無駄に虚勢ばっか張って、俺に向かってくるあの態度。今まで会ったどんな奴らとも違う。見ていて飽きない」
初めて対面した日、息子は確かにあの子を拒絶した。
ましては可愛いだなんて。
今の彼からは到底考えられない。
それほどまで毛嫌いしていたというのに。
だがどんなに時間がかかってもいい。
鬼頭家の為に。
少しでも息子が異能を持つ人間の娘を気に入ってくれさえすればそれだけでいいと思っていた。だからあの子から白夜の名前が出た時は内心驚いた。自分の知らない所で。まさかこんな短期間でお互いが接点を持つ仲になっていたとは。
「…白夜、分かっている筈だ。あの子は、、、」
「異能がねぇ。そう、アイツは異能のない、ただの人間の娘」
「やはり知っていたか」
「会った時から知ってた。アンタだって鬼頭家の当主なんだ。この問題には遅かれ早かれ気付いていただろうが。ま、その様子じゃ久野家にはまだ何も連絡していないんだろ?」
鬼頭家が久野家に要求したのは数年ぶりに高い封力を受け継いだという娘。
その子が花嫁として白夜と結婚してくれれば。
鬼頭家を更なる繁栄へ。
白夜の妖力補助にも繋がると思い期待していたというのに。
なのに久野家が隠世へ送り込んできたのは。
「白夜、お前はどうしたい?」
自分とて馬鹿ではない。
鬼頭家当主として。
あの子に若干の違和感を感じていた。
だが白夜が何も指摘しなかったため、自分からは敢えて言及せずに暫くは様子を見守るつもりでいた。それでも時というのは嫌でも訪れるもの。
「例え久野家の人間とて、異能を持たない人間などお前にとって何の役にも立たん。鬼頭家や今後の隠世にもだ。両世界に基づく契約を久野家は裏切った。ならば、」
国の為にも。
そして鬼頭家の為にも。
あの娘を殺すしか、、、
「必要ねぇ」
だが不意に白夜はそう言い立ち上がる。
「アイツは俺に納得のいく生き方をすると約束した。これは俺との契約だ。異能がないのを分かった上でこの俺様と約束したんだ。縛りを結んだ以上、アイツはもう俺のもんだ」
深夜はそれを聞くと息をのみ慌てた。
「白夜!お前は自分が何を言っているのか分かっているのか⁉」
花嫁に異能が無い。
つまり白夜自身の妖力に今後も制限はかからない。
強い妖からは強い邪気が生まれる。
万が一、邪気の影響を喰らい続け、白夜が暴走するようなことがあれば、、
「異能を持たない娘を迎い入れることは固く禁じている。あってはならん。あの子の為にも。お前自身の為にもだ。今すぐ久野家から例の娘を花嫁に迎い入れさせる。だから考え直すのだ」
「いや~だね。俺は一度決めたら曲げない主義なんで。言った筈だ、俺はアイツだから契約したと。過去の女達とは違う。異能がない身で必死に生きようとあがいている姿に俺は強い意志を感じた。俺の嫁にするにはそんだけで十分」
「白夜!これは鬼頭家当主としての命令だ!今すぐ彼女と婚約破棄をしろ」
「ぜってぇ嫌だ。俺の邪魔はさせない。アイツは俺のだ。今更逃してたまるかよ!!」
「…そこまでなのか?」
その強い意志に深夜は圧倒された。
ここまで感情的に何か一つのことに執着する息子を見たことはなかったからだ。
「俺はアイツを愛してる。今はただ…アイツが愛おしい」
「何故だ、何故そこまであの子を…あの子の何がお前をそうさせた」
「アイツを信じると決めた。本来ならお翠を殺すとこだった。それでもアイツの頼み次第では折れてやろうと思ったのさ」
「…お翠は助かると。お前は心の何処かで、本当は彼女がそうする筈だと信じているのか」
猶予の中、彼女がお翠を助ける保障は未だ不明。
例え自分の契約にそぐわない行為とて、彼女次第では生かすこともしてやれると?
納得のいく生き方。
それは白夜が一度認めた相手を同じく彼女も認めるのか。
最初から全て試していたつもりか。
鳳魅から話を聞いてはいたが、あの子は鳳魅の存在を認めた。
ならお翠ならどうか?
結果は見事、あの子は鳳魅同様にお翠を認めようとしている可能性が高い。それを決定づけたのは鳳魅の元から持ち帰ったとされる解毒剤。お翠が寝込み、介抱することを証明づける言動だった。
強大な縛りを好きを理由に自ら破ってしまうとは。
「王家が黙っておらんぞ」
異能があるからこそ、その貴重な存在に隠世では嫁入りが認められている。
だが今回、隠世で名を馳せる鬼神が花嫁に選んだのは異能を持たない人間の娘。
この事実が王家に知られたりでもしたら…。
「そん時はそん時だろ。先の未来を今から不安視してどうすんだよ。嫌でも未来なんざくるもんなんだし。どんな理由にせよ、アイツは俺が認めた俺だけの花嫁だ。この先も死んでも離すつもりはねぇ。アンタは黙ってみてろ」
「……」
白夜は何も言い返さない深夜を一瞥すれば颯爽と部屋を後にしてしまった。
すると部屋は静寂に包まれた。
「…王手か」
深夜が将棋盤に目を向ければ、そこには詰みの駒だけがぽつんと取り残されていた。



