不思議そうに彼女を見れば、悲しげに天井を見つめていた。
「補佐として頑張れば頑張るほど、白夜様はちっとも私を構ってくれなくなって。そんな時、白夜様が現世から花嫁を迎い入れるって話を聞いたの」
「!!」
「来た女を見て腹が立ったわ。何の取り柄も無い、ただのひ弱な人間の小娘。そんな女に白夜様を奪われたかと思うと、怒りでどうにかなりそうだった。…だから、だから!!ッ」
お翠さんは目に涙を浮かべれば布団を握りしめた。
お翠さんが私にしたことは決して許されるべき問題ではない。
運が悪ければ私は死んでいた。
もっと酷い目にあっていたかもしれない。
分かってる、分かってるけどさ、、。
私にはどうしても彼女を憎むことができない。
彼女には彼女の境遇があって今の彼女がいるのは白夜様がいてくれたから。
補佐として鬼頭家を支える存在になる。
それが彼女にとっての白夜様に返す最大限の恩返し。
認められたからこそ。
それに見合う自分になって、期待に応えようとする気持ちは鳳魅さんと一緒なんだ。
ただ白夜様が好き。
それだけの理由で私を襲った訳ではなかったんだ。
「…すみません」
「は?なんでアンタが謝んのよ。普通は逆でしょ」
「いえ、やっぱり私は貴方を恨む気にはなれなさそうです」
「…は?」
笑いながらそう言う私にお翠さんは固まった。
彼女にとっては何を言っているのかが心底理解できないのだろう。
「勿論、今回の件を許すつもりはありません。でもお翠さんは過去の私によく似てるって考えたんです」
「…」
「決して幸せな暮らしではなくて挫折も多く味わいました。でも結果、この場所で白夜様に認めて頂けたというのなら、それに恥じぬ行いを。私も自分自身の為に頑張ろうって。そう思えるんですよ」
「アンタ…」
何か言いたげなお翠さんもその口を閉ざすとやがては溜息をついた。
「お人好しにも程があるわね。というか、なんで私がアンタにこんな話ししてんのよ」
「ふふ、熱のせいですよ」
「ほんとムカつく。でも…ごめんなさい」
そう謝る彼女にニコリと微笑んだ。
やっぱりただ悪い人で終わらせなくて良かったのだ。
ここに来てからずっと話してみたいと思っていた。
話せばきっと理解してくれる人だって。
鬼頭家で働く人。
それはそういうことでしょ?
「契約」
お翠さんは布団から顔を出すと私にそう告げる。
「アンタがした彼との契約。それは呪いと言ったでしょ?約束の取り付け事は、白夜様と相手との間に強い縛りが生まれるのよ」
「縛りですか?」
「あの方は生半可な約束をしない。逆を言えば約束した者を気に入った、認めたということ。もし相手側が約束を破ったならば、相手側はその代償として命を奪われるの」
「え」
それってつまり…死ぬということ?
白夜様が約束と称して相手との間に契約を行う。
この契約は呪いとなり、両者の関係を縛る糸の役割となる。約束を破ることは糸を一方的に切るということ。
そう言い、お翠さんが話す内容は実に不気味なものだった。
「いい?あの方が自ら契約を切れば相手に代償はかからない。でも相手からなら話は別。裏切れば殺される。何故か分かる?」
「…」
「約束をした者は千里の眼を通して一度は認めた相手なのよ。当然、裏切ればあのお方にとっては裏切りも同然。生きるに値しない存在。あの方の裏の顔は冷酷非道。裏切り者には決して容赦などしないわ」
「ちょっと待って下さい!ではお翠さんは!」
その話が本当ならここで認められた彼女の立場は今回の事件で無効。
ならお翠さんは…。
「…自分がしたことを今更懇願する気はないわ。一度助けられ、認められたその身を自ら壊してしまったのは他ならぬこの私なのだから」
「そんな…」
お翠さんはそれだけ言うと背を向けて寝てしまった。
私は一つの決心すると立ち上がり、自室を出ればある場所へと向かった。