口をつぐんだお翠。
時雨が不思議そうに見れば悲しげに天井を見つめていた。
「補佐として頑張れば頑張るほど…若様は私を見てくれなくなった。それまでは甘やかせて頂く機会も多くて話す時間も多かったのに。急に突き放された気分に落ち込んでいたわ。そんな時、若様が現世から花嫁を迎い入れる話を聞いたの」
「!!」
「来た女を見て腹が立ったわ。何の取り柄も無い。ただの弱い人間の小娘。そんな女に若様を横から奪われたんだと。怒りでどうにかなりそうだった…だから、だから!ッ、、」
お翠は目に涙を浮かべ布団を握りしめた。
それでも彼女がしたことは決して許されるべき問題ではない。
運が悪ければ自分は死んでいた。
もっと酷い目にあっていたかもしれない。
分かってる、分かってるけど、、。
時雨はどうしても憎むことができなかった。
彼女には彼女の境遇があって、今の姿があるのは白夜が助けてくれたから。つまり時雨同様にそこには未来への可能性を見出してくれたということ。
補佐として。
鬼頭家を支える存在として。
それが今まで受けていた施しも甘えも全て失って。
それでも一人前の女中補佐として責務を果たすに相応しいことを証明しなければならなかったのだ。それこそがお翠にとって、白夜に返す最大限の恩返し。
認められたからこそ。
それに見合う自分になり期待に応えようとする気持ち。
ただ白夜のことが好き。
それだけの理由で時雨を襲った訳ではないと分かり謎に安心してしまった。
「…すみません」
「は?なんでアンタが謝んのよ。普通逆でしょ」
「いえ、やっぱり私は貴方を恨む気にはなれなさそうです」
「は??」
笑って答える時雨にお翠は意味も分からず固まった。
お翠にとっては何を言っているのかが心底理解できないのだろう。
「今回の件を許すつもりはありません。でもお翠さんの過去は私が受けた境遇と重なる点も多いんです。決して幸せな暮らしではなかったし、挫折も苦しみも沢山味わいました。でも今はここで白夜様に認めて頂けました。まずは婚約者として、そしていずれは人間であっても恥じることのない行いを。私も自分自身の為に頑張りたい。そう思ってここにいます」
「アンタ…」
その真っ直ぐな視線にお翠は何か言いたげな顔をするも結局何も言わず口を閉ざした。
「ふん、お人好しにも程があるわね。…というか、なんで私がアンタにこんな話してんのよ」
「熱のせいです」
「ほんとムカつく。でも…ごめんなさい」
そう謝るお翠。
時雨はニコリと微笑んだ。
やっぱり悪い人で終わらせなくて良かったのだ。
ここに来てからずっと話してみたいと思っていた。
話せばきっと理解してくれる人だって。
鬼頭家で働く人。
それはそういうことでしょ?
「…契約」
お翠は布団から顔を出すと時雨にそう告げる。
「アンタがした若様との契約。それは呪いとさっき言ったでしょ。約束の取り付け事は彼との間に強い縛りが生まれるのをご存知?」
「縛り?」
「彼は生半可な約束をしない。逆を言えば約束した者を気に入った、認めたということ。もし相手が約束を破るようなことがあれば、相手はその代償に命を奪われるの」
「え、それってつまり…」
死ぬ…ってこと?
白夜が約束と称して相手と契約をする。
すると契約は呪いに変換され、両者の関係を強く縛る。
約束を破ることは糸を一方的に絶ち切るということ。
お翠が話す内容は実に不気味なものだった。
「いい?彼自ら契約を切れば相手に代償はかからない。でも相手からであれば話は別。裏切り行為。つまり殺せと言っているも同然。この意味分かる?」
「…」
「約束は千里眼を通して一度は認められた相手なのよ。裏切れば彼にとっては裏切りも同然。生きるに値しない存在。若様の裏の顔は冷酷非道。裏切り者に容赦はしない」
「ちょっと待って下さい!では…お翠さんは!」
その話、本当なら鬼頭家に認められた彼女の立場は今回の事件で無効。
ならば彼女は…、、、
「…自分がした失態に施しを受ける気はないわ。一度助けられ認められた身。それを自ら壊してしまったのは他ならぬこの私なのだから」
「そ、そんな…」
お翠はそれだけ言うと背を向けて寝てしまった。
時雨の中でやるべきことが一つ決まった。
静かに自室を出ればある場所へと向かった。
時雨が不思議そうに見れば悲しげに天井を見つめていた。
「補佐として頑張れば頑張るほど…若様は私を見てくれなくなった。それまでは甘やかせて頂く機会も多くて話す時間も多かったのに。急に突き放された気分に落ち込んでいたわ。そんな時、若様が現世から花嫁を迎い入れる話を聞いたの」
「!!」
「来た女を見て腹が立ったわ。何の取り柄も無い。ただの弱い人間の小娘。そんな女に若様を横から奪われたんだと。怒りでどうにかなりそうだった…だから、だから!ッ、、」
お翠は目に涙を浮かべ布団を握りしめた。
それでも彼女がしたことは決して許されるべき問題ではない。
運が悪ければ自分は死んでいた。
もっと酷い目にあっていたかもしれない。
分かってる、分かってるけど、、。
時雨はどうしても憎むことができなかった。
彼女には彼女の境遇があって、今の姿があるのは白夜が助けてくれたから。つまり時雨同様にそこには未来への可能性を見出してくれたということ。
補佐として。
鬼頭家を支える存在として。
それが今まで受けていた施しも甘えも全て失って。
それでも一人前の女中補佐として責務を果たすに相応しいことを証明しなければならなかったのだ。それこそがお翠にとって、白夜に返す最大限の恩返し。
認められたからこそ。
それに見合う自分になり期待に応えようとする気持ち。
ただ白夜のことが好き。
それだけの理由で時雨を襲った訳ではないと分かり謎に安心してしまった。
「…すみません」
「は?なんでアンタが謝んのよ。普通逆でしょ」
「いえ、やっぱり私は貴方を恨む気にはなれなさそうです」
「は??」
笑って答える時雨にお翠は意味も分からず固まった。
お翠にとっては何を言っているのかが心底理解できないのだろう。
「今回の件を許すつもりはありません。でもお翠さんの過去は私が受けた境遇と重なる点も多いんです。決して幸せな暮らしではなかったし、挫折も苦しみも沢山味わいました。でも今はここで白夜様に認めて頂けました。まずは婚約者として、そしていずれは人間であっても恥じることのない行いを。私も自分自身の為に頑張りたい。そう思ってここにいます」
「アンタ…」
その真っ直ぐな視線にお翠は何か言いたげな顔をするも結局何も言わず口を閉ざした。
「ふん、お人好しにも程があるわね。…というか、なんで私がアンタにこんな話してんのよ」
「熱のせいです」
「ほんとムカつく。でも…ごめんなさい」
そう謝るお翠。
時雨はニコリと微笑んだ。
やっぱり悪い人で終わらせなくて良かったのだ。
ここに来てからずっと話してみたいと思っていた。
話せばきっと理解してくれる人だって。
鬼頭家で働く人。
それはそういうことでしょ?
「…契約」
お翠は布団から顔を出すと時雨にそう告げる。
「アンタがした若様との契約。それは呪いとさっき言ったでしょ。約束の取り付け事は彼との間に強い縛りが生まれるのをご存知?」
「縛り?」
「彼は生半可な約束をしない。逆を言えば約束した者を気に入った、認めたということ。もし相手が約束を破るようなことがあれば、相手はその代償に命を奪われるの」
「え、それってつまり…」
死ぬ…ってこと?
白夜が約束と称して相手と契約をする。
すると契約は呪いに変換され、両者の関係を強く縛る。
約束を破ることは糸を一方的に絶ち切るということ。
お翠が話す内容は実に不気味なものだった。
「いい?彼自ら契約を切れば相手に代償はかからない。でも相手からであれば話は別。裏切り行為。つまり殺せと言っているも同然。この意味分かる?」
「…」
「約束は千里眼を通して一度は認められた相手なのよ。裏切れば彼にとっては裏切りも同然。生きるに値しない存在。若様の裏の顔は冷酷非道。裏切り者に容赦はしない」
「ちょっと待って下さい!では…お翠さんは!」
その話、本当なら鬼頭家に認められた彼女の立場は今回の事件で無効。
ならば彼女は…、、、
「…自分がした失態に施しを受ける気はないわ。一度助けられ認められた身。それを自ら壊してしまったのは他ならぬこの私なのだから」
「そ、そんな…」
お翠はそれだけ言うと背を向けて寝てしまった。
時雨の中でやるべきことが一つ決まった。
静かに自室を出ればある場所へと向かった。



