複雑な感情を多く抱え、何とか乗り切ったあの日から数日。
「え、お翠さんが⁈」
お昼過ぎ、お香さんから聞いた話に私は思わず耳を疑った。
「お翠が私を襲ったって本当?」
「…はい。何でも時雨様が若様とお出かけになられた日、コッソリ後をつけておられたみたいで。罪人達が言うにはお翠様に時雨様を襲うよう命令されたとかで」
「そんな…どうして」
確かにお翠さんは私に良い印象を持っていない。
ここに来た時から私に対するあたりは一段ときつかったし。でもまさか、私を襲った妖達を裏で命令していたのがお翠さん本人だなんて。
「お翠さんは今どこに?」
「丁度今頃、当主様と若様による詰問の真っ最中です」
無駄に広い大広間に鎮座する深夜とその傍らに座る白夜。二人の目線の先にはブルブルと顔を真っ青にさせたお翠が手をついて頭を下げている。
「それで?お前は何も覚えてないと」
重い顔をして放つ深夜の言葉は下位の妖にとってはこの上なく恐ろしいものだった。
「わ、私はただ、白夜様が心配で」
「答えになってねぇんだよ。俺が心配?だから俺のもんでも殺そうと?」
白夜は苛立ちを隠しきれずぎろりとお翠を睨みつける。
「ち、違います!私はただ命令されて」
「あ?命令されただ?だから言う通りにアイツを襲ったのかよ!」
「も、申し訳ありません!」
「謝って済む問題か!!」
「白夜、お前は少し落ち着け」
怒りを露にするせいか感情的になる白夜。
深夜はこれを静かに手で制した。
「落ち着けるかよ!直接でないとはいえ、こいつは俺の大事なもんに手出したんだ。俺の嫁に手を出すということは、この鬼頭家を裏切ったと捉えることもできんだぞ」
花嫁に手を出すということは鬼頭家に背くといえる行為。
時雨に手を出した。
それは白夜、並びに鬼頭家の存在を否定するということ。そう考えれば白夜の存在を否定する要素が伺えるはずだが。
だが深夜には引っ掛かる点があった。
「お翠。お前はあの日、誰に時雨さんを誘拐するよう命じられた?」
「ご、ご当主様…何故」
「あの日、時雨さんが誘拐された際、その残影からはお前の妖力を一切感じなかった」
護衛番には犯人の真相を突き止めさせた。
だが現場に残った残影にはお翠の妖力おろか、全く身に覚えのない術が摘出されたのだ。
「幻惑の妖術。あれはお前の力如きに使いこなせる技ではない。使いこなせる妖は隠世界でもごく一部の者のみ」
「!」
「そんな高度の術式が現場からは確認されたのだ。果たして主犯はお前一人と言えようか?」
「ッ、」
「黙ってねぇでさっさと吐けよ。お前は一体、誰に命令されてあの妖術を借りた訳?」
二つの妖力は段々と威力を増していく。
もう白夜の方なんて見れたもんじゃない。
下位の妖であれば、近くを通っただけでも威力に負けて失神してしまうだろう。
「…わ、分からないのです」
「あ゛ぁ゛?」
「わ、私に声を掛けてきた相手はフードを被っていて。あの時はあの女のことで頭が一杯だったし。何にも疑わずに口車にのせられて。気づいたら後のことを何も覚えていなくて」
「ほお、それで罪人達に彼女を引き渡したと?」
深夜は顔を顰めた。
お翠はその恐ろしさに震えながらただ俯くばかりだ。
これ以上は何も得られないと深夜は判断すれば溜息をついて立ち上がる。
「お翠、お前にはガッカリした」
「!!」
「だが大体の事情はこれで把握出来た。後日、こちらからの処遇が決まるまでお前には部屋での謹慎を命ずる」
深夜は冷たく言い放ち、広間を後にする。
「ああ…。ご、ご当主…様」
お翠はその言葉を聞くとその場に崩れ落ちてしまった。
「…チッ」
白夜はその様子を一瞥すると自分も後に続いて大広間を後にした。
「え、お翠さんが⁈」
お昼過ぎ、お香さんから聞いた話に私は思わず耳を疑った。
「お翠が私を襲ったって本当?」
「…はい。何でも時雨様が若様とお出かけになられた日、コッソリ後をつけておられたみたいで。罪人達が言うにはお翠様に時雨様を襲うよう命令されたとかで」
「そんな…どうして」
確かにお翠さんは私に良い印象を持っていない。
ここに来た時から私に対するあたりは一段ときつかったし。でもまさか、私を襲った妖達を裏で命令していたのがお翠さん本人だなんて。
「お翠さんは今どこに?」
「丁度今頃、当主様と若様による詰問の真っ最中です」
無駄に広い大広間に鎮座する深夜とその傍らに座る白夜。二人の目線の先にはブルブルと顔を真っ青にさせたお翠が手をついて頭を下げている。
「それで?お前は何も覚えてないと」
重い顔をして放つ深夜の言葉は下位の妖にとってはこの上なく恐ろしいものだった。
「わ、私はただ、白夜様が心配で」
「答えになってねぇんだよ。俺が心配?だから俺のもんでも殺そうと?」
白夜は苛立ちを隠しきれずぎろりとお翠を睨みつける。
「ち、違います!私はただ命令されて」
「あ?命令されただ?だから言う通りにアイツを襲ったのかよ!」
「も、申し訳ありません!」
「謝って済む問題か!!」
「白夜、お前は少し落ち着け」
怒りを露にするせいか感情的になる白夜。
深夜はこれを静かに手で制した。
「落ち着けるかよ!直接でないとはいえ、こいつは俺の大事なもんに手出したんだ。俺の嫁に手を出すということは、この鬼頭家を裏切ったと捉えることもできんだぞ」
花嫁に手を出すということは鬼頭家に背くといえる行為。
時雨に手を出した。
それは白夜、並びに鬼頭家の存在を否定するということ。そう考えれば白夜の存在を否定する要素が伺えるはずだが。
だが深夜には引っ掛かる点があった。
「お翠。お前はあの日、誰に時雨さんを誘拐するよう命じられた?」
「ご、ご当主様…何故」
「あの日、時雨さんが誘拐された際、その残影からはお前の妖力を一切感じなかった」
護衛番には犯人の真相を突き止めさせた。
だが現場に残った残影にはお翠の妖力おろか、全く身に覚えのない術が摘出されたのだ。
「幻惑の妖術。あれはお前の力如きに使いこなせる技ではない。使いこなせる妖は隠世界でもごく一部の者のみ」
「!」
「そんな高度の術式が現場からは確認されたのだ。果たして主犯はお前一人と言えようか?」
「ッ、」
「黙ってねぇでさっさと吐けよ。お前は一体、誰に命令されてあの妖術を借りた訳?」
二つの妖力は段々と威力を増していく。
もう白夜の方なんて見れたもんじゃない。
下位の妖であれば、近くを通っただけでも威力に負けて失神してしまうだろう。
「…わ、分からないのです」
「あ゛ぁ゛?」
「わ、私に声を掛けてきた相手はフードを被っていて。あの時はあの女のことで頭が一杯だったし。何にも疑わずに口車にのせられて。気づいたら後のことを何も覚えていなくて」
「ほお、それで罪人達に彼女を引き渡したと?」
深夜は顔を顰めた。
お翠はその恐ろしさに震えながらただ俯くばかりだ。
これ以上は何も得られないと深夜は判断すれば溜息をついて立ち上がる。
「お翠、お前にはガッカリした」
「!!」
「だが大体の事情はこれで把握出来た。後日、こちらからの処遇が決まるまでお前には部屋での謹慎を命ずる」
深夜は冷たく言い放ち、広間を後にする。
「ああ…。ご、ご当主…様」
お翠はその言葉を聞くとその場に崩れ落ちてしまった。
「…チッ」
白夜はその様子を一瞥すると自分も後に続いて大広間を後にした。